水晶のグラス
これは、学校から下校途中の、ある男子学生の話。
その男子学生は、その日の授業を全て終えて、
自宅への帰り道を一人で歩いていた。
すると目の前に、
見知った後ろ姿が歩いているのに気が付いた。
後ろ髪を一筋だけ銀色に染めた髪。
それは、
その男子学生が高校時代から付き合いがある、
友人の後ろ姿だった。
その男子学生は早足で追いついて声をかけた。
「君、今日の授業はもう終わりかい。」
「なんだ、お前か。
そういうお前も、今日の授業はもう終わったんだな。」
「ああ、そうだよ。
途中まで一緒に帰ろう。」
そうして、
その男子学生と友人は、
自宅までの道のりを並んで歩いていった。
その男子学生と友人は、他愛もない話をしながら、
帰り道を並んで歩いていた。
すると、しばらく歩いたところで、
古ぼけた小さな喫茶店の前に差し掛かった。
その喫茶店は、その男子学生と友人が、
学校の行き帰りによく通っていた喫茶店だった。
しかし、今は営業していないようで、
店の出入り口は閉じられていた。
そこには張り紙がしてあって、
都合により閉店致します。
と書かれていた。
張り紙に吸い寄せられるようにして、
その男子学生と友人の二人は、その喫茶店の前に近付いていった。
張り紙に気が付いて、
その男子学生が名残惜しそうに口を開いた。
「あれっ。この喫茶店、閉店するのか。
残念だな。
僕も君も、この喫茶店にはよく通っていたのに。
そういえば最近は閉まっていたなぁ。
何かあったんだろうか。」
その男子学生の疑問に、
友人が口に手を当ててヒソヒソと返す。
「実はな。
最近、この喫茶店で事件があったらしいんだよ。」
「事件だって?
そういえば、警察が来ていたことがあったかな。
それで、どんな事件だったんだ?」
「何でも、
店主である女の人が、何者かに殺されたらしいんだ。」
「店主の女の人って、
喫茶店の中で占いみたいなことをしていた、あの女の人のことか。
それはお気の毒に。
君も残念だろう。
あの女の人のこと、気に入っていたみたいだものね。」
「お前、気付いてたのか。」
その男子学生に心の内を見透かされて、友人は驚いた顔になった。
その男子学生は、ちょっと誇らしげに応える。
「そりゃそうさ。
僕たち長い付き合いだからな。
君の女の好みくらい、分かってるさ。
あの女の人、綺麗な人だったものなぁ。
君、あまり気を落とすんじゃないぞ。」
「あ、ああ・・・。
ありがとうな。」
そう応える友人だったが、どことなく元気がないようだった。
二人がそんなことを話していると、
ふと、その喫茶店の建物の前に、
大きな籠が置いてあるのが目に留まった。
「あれ、なんだろう。」
その男子学生が籠に近付いていき、
遅れて友人もそれに続いた。
閉店の張り紙がされている喫茶店。
その建物前には、大きな籠が置かれていた。
その籠を覗くと中には、
フォークやスプーン、食器類、畳まれたテーブルクロスなど、
細々としたものが入れられていた。
その籠にも張り紙がされていて、
不要になった備品です。ご自由にお持ちください。
と書かれていた。
その男子学生は、籠の中の物を漁りながら言う。
「ご自由にお持ちください、だってさ。
この食器類、見覚えがあるよ。
多分、この喫茶店で使われていた物なんだろうね。
きっと綺麗に使われていたんだろう。
まだまだ使えそうだよ。
記念に何か貰っていこうか。」
しかし、友人は気が進まないようだ。
それを聞いて、眉をひそめて言い返す。
「止めておけよ。
この喫茶店で事件があったって言っただろう。
そんなところで使われていた備品なんて、気味が悪い。」
「う~ん。
でも、思い出の喫茶店が閉店してしまって、
形に残る物が何も無いっていうのも、寂しいじゃないか。
一つくらい、記念になるものを貰っていこうよ。
・・・おっ、これなんてどうだい。」
そう言って、その男子学生が手に取ったのは、
お揃いの二つのグラスだった。
籠の中にグラスは他にも幾つかあったが、
その二つのグラスだけは材料が違うのか、異彩を放っていた。
外光を取り込んだそのグラスは、万華鏡のような光彩を秘めていた。
その男子学生は、美しく輝くそのグラスを手に取って、
もう片方を友人に向かって差し出した。
「ほら、君も貰っておきなよ。」
手に取って差し出されては、断るのも角が立つ。
友人は渋々といった様子で、差し出されたグラスの片方を受け取った。
「あ、ああ。
じゃあ俺も、一つ貰っておくよ。」
そうして、
思い出の喫茶店の記念の品を手に入れて、
その男子学生と友人は自宅へと帰っていった。
その男子学生は友人と分かれてから、
間もなく自宅のアパートに帰宅した。
シャワーを浴びて部屋着に着替える。
ホッと一息ついて、
それから鞄に入った勉強道具を仕舞おうとして、
鞄の中に見慣れない荷物が入っていることに気が付いた。
「そういえば、
あの喫茶店でグラスを貰ってきたんだっけ。
すっかり忘れていた。
丁度いい。
早速このグラスで冷たい飲み物でも飲もう。」
喫茶店から持って帰ってきたグラスを持って、台所へ向かう。
洗剤で綺麗に洗って、
それから冷蔵庫で冷やしておいた水を注ぐ。
そうして冷たい水を注がれたグラスは、
テーブルの上でキラキラと輝いていた。
そのグラスの輝きを眺めながら、その男子学生は満足そうに頷く。
「こうして改めて見ると、やっぱり綺麗なグラスだなぁ。
貰ってきて良かった。
それにしてもこのグラス、材料はガラスじゃなさそうだ。
何で出来てるんだろう。」
材料を確認しようと、グラスを持って裏側を覗く。
しかしそこには、原材料表示などは見当たらない。
「何も書いてないな。
このグラス、既製品じゃないのかな。」
その男子学生は、手にしたグラスをくるくる回して、
上から横から覗き込んだ。
すると、視界のどこかで、何かが動いたような気がした。
「うん?
今、グラスの中で、何かが動いたような気がしたな。
テレビの映像でも映り込んだのかな。」
そう思ったが、今はテレビは点いていない。
部屋の中には、他に動くようなものは何も無かった。
「ただの気の所為かな。」
グラスから目を離して、テーブルの上に置いた。
しかしやはり、
視界のどこかでチラチラと何かが動いている気がする。
その男子学生は、部屋の中をキョロキョロと見回して、
その原因を探した。
テレビは今は点いていない。
ペットの類はいない。
念の為に窓から外を見るが、近くには何もいない。
部屋の中にも外にも、
その男子学生以外に動くものは無いはずだった。
それでもなお、視界のどこかで何かが動いている。
そうして、その原因を探していく内に、視線がグラスの方に向いた。
その男子学生は、グラスを上から横から眺めて、
その原因にやっと気が付いた。
「・・・このグラス、中に映像が映ってるのが見える。」
視界の隅で動くものの正体。
それは、グラスの中に映って見える映像だった。
閉店する喫茶店で貰ってきたグラス。
そのグラスに水を注ぐと、
グラスの中に映像のようなものが映り込んだ。
「まさか、グラスの中に映像が映ってるのか?
どうなってるんだ。」
その男子学生は信じられない様子で、目をパチクリしている。
しかし何度見ても、
やはりそのグラスの中には映像が映っているように見える。
映像がよく見えるように、
その男子学生はグラスに顔を近付けた。
どんな仕掛けになっているのか、
そのグラスは、上から見ても横から見ても、
中に映像が映っているのが確認出来た。
グラスを透かして見える向こう側の景色。
そこに見えるのは、見慣れた自分の部屋の景色ではなく。
まるで映画を映すスクリーンのように、違う風景が映って見えた。
その男子学生は何度も首を傾げている。
「このグラス、どうなってるんだろう。
グラスの中に、何か映像が見える。
元々そういう仕掛けのグラスだったのかな。」
しかし、何度そのグラスを調べてみても、
グラス自体はただのグラスにしか見えない。
仕方がなく、その男子学生は、
原因を調べるのはひとまず脇に置いた。
今、起こっていることを、あるがままに受け入れて、
グラスの中に映る映像をしげしげと眺めてみる。
その中に映っている光景は、どこかで見たことがあるものだった。
貰ってきたグラスに水を注ぐと、
中に映像のようなものが浮かび上がった。
その映像に映っているのは、どこかで見たことがある光景だった。
どこかの建物の中。
落ち着いた内装の室内で、
紫色の頭巾を被った女が、こちらに向かって手をかざしている。
口元を覆うベールに隠されて分かり難いが、
その口は呪文のようなものを唱えているようだ。
その女がグラスのこちら側に向かって手をかざし、
呪文のようなものを唱え、やがてそれが終わった。
向かい合わせに誰かがいるようで、
その女は、映像では見えない相手に何か話しかけた。
そうしてその女と向い合せの相手と、
会話がしばらく続いたところで、
その女が驚いた表情になって、それから首を横に振った。
どうやら、
向かい合わせの相手から何かを言われて、
それに対してその女は否定して返したようだ。
それから、
向かい合わせだった相手が立ち上がって、
映像の中に後ろ姿を現した。
後ろ姿から考えて、その人物は若い男のようだ。
その人物は激昂した様子で、その女に掴みかかり、
二人は揉み合いになった。
そうしている内に、
若い男が懐から刃物のようなものを取り出して、
その女の顔に斬り付けた。
パッと血しぶきが飛んで、辺りに血が飛び散った。
血しぶきが直接かかったようで、グラス越しの視界が真っ赤に染まる。
グラスの中の映像は、そこで終わっていた。
グラスの中の映像を見終わって、その男子学生が呟く。
「最後のあれは血しぶきだろうか。
なんて恐ろしい。
でも、あの光景には見覚えがあるな。
あの内装は、グラスを貰ってきた喫茶店のものだ。
あの喫茶店では、店主の女の人が占いのサービスもやってたはず。
映像に映った女の人は、喫茶店で占いをやっていた人だ。
人相に見覚えがあるから、間違いない。
場所と人から考えて、
この映像は、あの喫茶店の中のものだろう。
こちらに向かって手をかざしていたということは、
この映像は、
占いに使っていた水晶玉か何かを通して見た光景だろうか。
そして、最後に映っていたあの人物。
占いの女の人に刃物で斬り付けた若い男。
あの後ろ姿を、僕はどこかで見たことがある気がする。
どこで見たんだったかな・・・。」
そこまで考えたところで、
その男子学生は、部屋の中の異変に気が付いた。
部屋の中がサビ臭い。
目の前が、真っ赤に染まっている。
真っ赤になったのは、
グラス越しの映像だけではなかった。
実際にグラスの中に入っていた水が、
真っ赤な血の色に染まっていたのだった。
「な、なんだ!?
血だ!
グラスの中の水が、真っ赤な血になっている。
あの映像の血しぶきのせいか?」
その男子学生は、
映像を見るためにグラスに近付けていた顔を、
慌てて離した。
グラスの中の映像を見ていると、
その映像に合わせたかのように、グラスの中の水が鮮血に染まった。
立ち込める血の匂いに、慌ててグラスから顔を離したその男子学生。
テーブルの上にグラスを残して、少し離れた場所から恐恐と様子を伺う。
「このグラス、どうなってるんだ?
中に映像が映ったかと思ったら、
その映像に合わせて、グラスの中が真っ赤になった。
この匂いは確かに血の匂いだ。
偽物だとは思えない。」
それよりも。
その男子学生には、他に考えるべきことがあった。
それは、グラスの中に映った映像。
グラスに映像が映る仕組みは、ひとまず脇に置くとして。
あの光景は、閉店する喫茶店の内部の映像だろう。
その喫茶店で、女が何者かに刃物で切りつけられた。
映像だけではなく現実にも、
あの喫茶店では女が何者かに襲われたらしい。
だとすれば。
このグラスに映る映像は、
現実に起きたことを記録したものかもしれない。
あの女の人相には見覚えがあるから、その可能性はある。
そうだとしたら、グラスの映像に映ったもう一人は犯人なのではないか。
刃物を取り出したあの人物、
犯人の姿に、どこか見覚えがある気がするのだ。
それは誰だったか。
もう少しで思い出せそうなのに、思い出せない。
そんなことを考えていると、
突然、玄関の呼び鈴が鳴らされた。
「なんだ?
こんな時間に、誰が来たんだ。」
玄関を開けると、そこには、
下校途中に一緒だったあの友人が立っていた。
その男子学生が驚いて応対する。
「あれっ。
君が僕の部屋に来るなんて珍しいな。
どうしたんだい。」
「ちょっと、相談したいことがあるんだ。
あの喫茶店で貰ってきたグラスに、変なものが映らなかったか。」
思い詰めたように話す友人。
どうやら、友人が持って帰ったグラスにも映像が映ったようだ。
やはり、グラスの映像は気の所為では無かった。
同類を見つけたような気になって、
その男子学生が安堵と共に応える。
「ああ。
僕も、グラスの中に映像が見えたよ。
もしかして、君もかい?
じゃあやっぱり、あの映像は間違いでは無かったんだね。」
「・・・ああ。
俺とお前で、同じ映像を見たのかは分からないけどな。
それで、相談に来たんだ。」
「分かった。
とにかく、中で話そう。」
そうしてその男子学生は、
尋ねてきた友人を部屋に上げて相談することにした。
その男子学生は、尋ねてきた友人を部屋に上げた。
さっき、グラスの中が血に変わったせいで、
部屋の中は血の匂いで満ちていた。
しかし、
その友人は血の匂いを嗅いでも、
驚いた様子は無かった。
テーブルの上に置かれた、血で満たされたグラスを見て、
納得したように言う。
「やっぱり。
お前が持って帰ったグラスも、こうなったんだな。」
「グラスの中に映像が見えて、
映像の中の女の人が刃物で切られて、血しぶきが飛び散って。
そうしたら、グラスの中の水が血に変わったんだ。
もしかして、君のグラスも同じなのか。」
「・・・ああ。
グラスの中に映像が見えて、
映像の中の女が刃物で切られたら、
グラスの中が血で真っ赤になったよ。
お前が見た映像のこと、もっと詳しく教えてくれるか。」
「僕が見た映像は、
あの喫茶店の内部の光景だったと思う。
喫茶店の中で、女の人が占いをしているところを、
水晶玉を通して見ているような映像だった。
それから、占いの女の人が、若い男に刃物で切りつけられたんだ。
確か、実際にあの喫茶店では事件が起こったんだよな。
もしかして、グラスの中に見えた映像は、
その事件の映像なんじゃないか?
監視カメラなのか何なのか、仕組みは分からないけど。
警察に連絡した方がいいかもしれない。
・・・でも、何と説明したら良いんだろう。
グラスの中に殺人事件の映像が見えました、なんて言っても、
警察は信じないよなぁ。」
その男子学生は、ああでもないこうでもないと考えて、
それから、ふと気が付いた。
目の前で背中を向けて立っている友人。
その後ろ姿に、見覚えがあった。
それは、あのグラスの中の映像。
占いの女に切りかかった若い男。
その後ろ姿が、この友人の後ろ姿にそっくりなのだ。
背格好だけではない。
後ろ髪を一筋だけ銀色に染めた、その髪の色までそっくりだった。
その男子学生は、改めて友人の後ろ姿を確認した。
グラスの中の暴漢と同じ後ろ姿。
友人はこちらを見ることもなく、背中を向けて黙ってそこに佇んでいる。
その男子学生が、友人の後ろ姿に恐る恐る話しかけた。
「・・・なあ、君。
僕、思い出したことがあるんだ。
もしかして・・・」
話を最後まで聞き終わる前に、友人が静かに振り返った。
その手には、刃物が握られていた。
友人が、静かにその男子学生の方に振り返る。
その手には刃物が握られていた。
その刃物も、その男子学生には見覚えがある物だった。
それは、グラスの中の映像に映った、
あの暴漢が持っていた刃物と同じ物だった。
その男子学生が、汗をたらりと流して話しかける。
「き、君。
その刃物、どうしたんだ。」
友人は無表情に応えた。
「お前、もう気が付いてるんだろう。」
「気が付いてるって、何が。」
「・・・俺だよ。
喫茶店の占いの女を、
映像の中で襲ったのも、現実に襲ったのも、
全部俺だよ。
まったく、どんな仕掛けになってるんだか。
あの女、最後まで俺をコケにしてくれる。」
「き、君、それは本当の話なのか。
あの女の人に気があったんだろう?
どうしてそんなことを。」
その男子学生に詰問されて、
友人は両手を掲げて、やれやれと首を横に振った。
「お前が察してるのと、だいたい同じ理由だよ。
何度も言い寄ったけど駄目で、最後はあの有様さ。
でも、あの喫茶店は、古くて監視カメラの類も無いし、
バレないと思ったんだけどな。
まさか、こんなところから足が付くなんて。
・・・だけど、お前には悪いが、
俺はまだ捕まるつもりはないんだ。」
そう話し終わると、友人はまた無表情になった。
それから、
手にしていた刃物を振りかぶって、
その男子学生に襲いかかった。
その男子学生は、咄嗟に腰を落として横っ飛びに避けた。
空いた空間を、刃物が鋭く通り過ぎていく。
体勢を立て直しながら、その男子学生が叫ぶ。
「止めろ!
僕を襲っても、その後どうする。
すぐに見つかるぞ。」
「田舎へ帰るさ。
俺の実家は、地元ではちょっとした名士でな。
地元の警察とも仲が良いんだ。
ちょっとばかし外国に留学するのも、悪くない話だ。」
そんな友人の話を聞き終わる前に、
その男子学生は、
友人が口を動かすのに気を逸らしたところに飛びかかった。
一か八か、友人の腰に向かって頭から体当りする。
友人は反撃されることを予想していなかったようで、
二人はもつれ合ったまま床に倒れ込んだ。
その拍子に、友人はテーブルに腕をぶつけて、
持っていた刃物を取りこぼした。
テーブルが倒れて、血で満たされたグラスが床に転げ落ちた。
血がぶちまけられて床が真っ赤に染まる。
グラスが欠けて、欠けたグラスとその破片が床に散らばる。
その上を、
取っ組み合いになった二人がゴロゴロと転がっていった。
もつれ合った二人が、
床に散らばったグラスの破片の上を通り過ぎた、
その時。
部屋の中に悲鳴が響き渡った。
取っ組み合いになっていた二人の体が離れる。
血まみれになったその男子学生が、床に横たわった。
しかしその血はグラスから溢れたもの。
悲鳴を上げたのは・・・友人の方だった。
友人が顔を抑えて、床の上を転げ回って悶絶していた。
顔を抑えた手の間から、血まみれの顔が見える。
友人の顔には、
欠けてギザギザになったグラスが突き刺さっていた。
顔に刺さったグラスの中に、
えぐり取られた目玉が転がっているのが見える。
顔に刺さったグラスの中に入った目玉を、
必死に取り出そうとする友人。
しかし、欠けたグラスが顔に深く突き刺さって、どうしても外れない。
苦痛にのたうち回る友人は、
顔に刺さったグラスを顔ごと床に叩きつけて割ろうとしている。
しかし、顔に深く刺さったグラスは割れも外れもしない。
そうして、自分の血しぶきで真っ赤になった友人は、
激しく痙攣したかと思うと、床に横たわったまま動かなくなった。
それから。
動かなくなった友人は、
その男子学生が呼んだ救急車で運ばれていった。
しかしその後、病院で死亡が確認された。
その男子学生は、
警察による取り調べを受けた後、
事件のあらましを聞く事ができた。
警察の話によれば。
あの喫茶店で、
女店主が何者かに殺されたのは事実だが、
それは一般にはまだ公表されていないことだった。
犯人はまだ捕まっておらず、
一般には知り得ない情報を知っていたということで、
死んだ友人が容疑者として調べられているそうだ。
事件現場となった喫茶店には、
貴重品などはそのまま残されていたが、
唯一、占いに使う水晶玉だけが失くなっていたという。
もしかしたらと調べてみた結果。
事件があった喫茶店から持ち帰ったグラスは、水晶で作られたものだった。
しかし、喫茶店の財産を管理する親類に話を聞いても、
備品の配布などはしていなかったそうだ。
あのグラスを喫茶店の前に置いたのは誰だったのか、
それは今も分かっていない。
友人の目玉をえぐり取った、あの水晶のグラス。
あのグラスにはもう、映像が映ったりすることは無くなった。
ただのグラスに戻った水晶のグラスは、
ひっそりと静かに、
万華鏡の様な光彩を放っていたという。
終わり。
グラスの中に映る光が綺麗で、それを使った話を書きました。
綺麗なだけではなくて、最後には痛々しいものになってしまいました。
お読み頂きありがとうございました。




