父 後編
暫く動けなかった。
どれぐらい時間が経っただろうか。
体を動かすと変な姿勢で固まっていたせいで関節からギシギシ音がする気がした。
テレビを見てみるとまだ少し煙が出ている。
現実とは思えない出来事をひび割れて燻るテレビが現実だと物語っている。
呆然としていると二階から妻と娘の悲鳴が聞こえてきた。
急いで二階に上がって行って娘の部屋のドアを開けようとするが開かない。
鍵なんて付いてない扉なのにいくらドアノブをガチャガチャ回しても開かない。
どんどん叩いて声をかけても返事がない。
時折妻と娘の悲鳴は聞こえるがそれ以外はしんとしている。
何度目かにドアノブを回すとあっけなく開いた。
ドアが開いた瞬間に部屋中がガタガタ揺れていることに気づいた。
妻と娘が私が入っていくとすぐに飛び付いて来た!
パンッパンッっという音と目に入ったのはベッドの上に浮く血塗れの女だ!
私が悲鳴をあげるとその女がベッドに落ちてきた!
私たちは悲鳴をあげて部屋を出た。
廊下から階段を下りようとすると
バタンッドンッ
凄い音がして振り返ると女がよつん這いで
ヴァアバアァヴァァアァァ
っと叫びながら向かってくる!
階段を転がり落ちそうになりながら下りていくと女もよつん這いのままこの世のものとは思えない叫び声をあげて追ってくる!
玄関にたどり着き扉を開けようとするが開かない!
何度ドアノブを捻っても開かない!
妻と娘も泣き叫びながら扉を叩く。
パンッパンッ
という音がずっと聴こえてくる。
家中がガタガタと揺れている!
蛍光灯がチカッチカッと明滅する!
血塗れの女がよつん這いでこちらに向かってくる!
私は妻と娘を後ろに庇って立つ!
もう目の前まで迫ってくる血塗れの女!
もうダメだと思ったとき、ドアがバンッと開いた!
私たちは夜の闇のなかに走って逃げていった。
後ろを振り返ると家の中からまぶしい光が見えた。
私たちは家から少しでも離れようと裸足で懸命に走った。




