始まり
俺はマネキン
しがない町の古びたデパート
俺が来て最初の頃は賑わっていた
ここに来て20年以上
今じゃ郊外のショッピングモールに客を盗られて土日でも俺の居る服飾フロアは閑古鳥が鳴くときもある
そんな服飾フロアのちょっぴり若向けなコーナーに俺は居る
季節を先取りして着飾り
あまりファッションに自信のない若者が俺の着ている服を一式買って行くとき
あの瞬間が好きだ
ずーっとここに突っ立っているだけの俺が唯一
存在価値を見いだす瞬間だ
上着だけじゃなく
パンツだけじゃなく
一式買い
スタッフのセンスと
俺の着こなし
そして客の思いきり
それらが高い次元で合わさったとき
一式買いという
ケミストリーが生まれる
俺の服を担当しているのは10年以上のベテランだ
彼女は新人の頃から筋が良い
彼女が来て最初の一週間で一式買いがあった
彼女はとても喜び俺も嬉しかった
ブランクの時期もあった
なかなか俺の着ている服が売れず
彼女も悩んでいた
そんなとき
俺は彼女にヒントを渡す
閉店後
インナーだけ着替えたり
下の階の本屋からファッション誌を持ってきてそっと彼女のロッカーに入れたり
気になる服を自分の近くにさりげなく置いたり
そう、俺は動ける
動けるマネキンなのさ
普通マネキンの寿命は10年前後
だが俺は毎晩自分の体の金属部分には下の階のスーパーで借りてきた556をスプレーして
体はしっかり下の階のスーパーで借りてきたウェットタオルで拭いている
いつもケアは大切にしている
そのお陰で20年たっても現役だ
なぜ動けるのかはわからない
漂っていた魂的なものが憑依したのか
マネキン工場で出来たときから魂が入っていたのか
それはわからない
気づいたら
俺はここにいた
前世の記憶のようなものはある
だが、それは今は関係ない
今の問題は只ひとつ
10年頼一緒にやってきたスタッフがやめてしまうということだ
凄く寂しい思い
彼女の新しい門出を祝う思い
少し複雑な気分だ
だが
俺はもちろん彼女に取り憑いていくつもりだ
なぜなら俺は動けるマネキン
………
ジョークさ
悪霊ジョーク
いや俺は悪霊じゃない
ちょっと動けるだけ
もちろん彼女を送り出す気持ちだ
そして…
彼女は行ってしまった
出会いと別れの桜の季節
彼女と別れ
新しく入った新人のスタッフが俺の服を担当することになった
彼女が最後に俺に着せていってくれた服
名残惜しい気持ちもあるが
この新しい
緊張した面持ちの新人のセンスも気になる
新人は彼女の着せていってくれた服を脱がし
新しい服を
え
……
何これ
嘘やん
いやなんでこんな
は?
だっさ
ナニコレダァッサ
いやゃ
脱がせろこんな服
やめてっ
いやあァァァァー
今日中に3話程更新しようとおもいます