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月琴町奇譚  作者: 斗酒庵主人
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9.岩山の町

サナカナが月琴町へ来た時のお話しになります。

 そこは遠い町だった。


 海岸沿いの線路を,赤い列車でどこまでもどこまでも走って行った先。

 晴れた空は青くて,海も真っ青で,遠くに白い雲がほっこり浮かんでる。

 向かいがわの座席で妹はずっと眠ってる。

 わたしはずっと窓から海をながめてた。

 青い青い海。

 きらきら光る波は,お父さんを思い出させる。

 お父さんの,最期の姿を。


 紗菜……佳菜のことを。


 お父さんは,笑ってた。

 青い,青い光の中で。


 そして,いなくなった。

 青い,青い光の中に。


 石村のおじさんが来たのは,お父さんのお葬式が終わってから。

 研究所の人たちが来て,お父さんの最後の画像を見せてくれてから後ずっと----わたしにはその間の記憶がない。

 ずっと泣いてた気もするし,何もしてなかった気もする。

 ただ,そばでずっと。

 カナが手を握ってくれてたのは覚えてる。


 列車は岬を大きく回った。

 夜になると,わたしたちの元住んでた町から,これから住むことになる町の灯りが見えるくらい。そんなに遠くには見えなかったのだけれど,列車はどこまでもどこまでも青い海沿いの線路を走ってゆく。


 目の前の海は,むかし陸地だった。

 と,学校で教わったことがある。


 空から降ってきた大きな岩が落ちた場所が,まあるくえぐれて海になった。

 その時えぐられた山の片っぽがあったのがうちの町,もう片っぽあったのが向こうの町。


 勇者様たちが空から帰ってきた後。

 そこをこの国の真ん中に決めた。


 真っ黒な壁みたいに,列車から前を見えなくしていた岬を回ると,ようやく向こうの町の港のところが見えてきた。

 わたしたの町からも見えてたけど。

 まだ遠くにあるのだけれど。

 すぐに気がつくのは町の真ん中にでん,と立ってる大きな岩山。

 巨大なタマゴみたいなカタチで,上のほうはどのくらい高いのかな?

 海から流れてきた白い雲がかかってる。


 むかし,この海に落ちたのよりずっとずっと大きな岩がいっぱい,この星に降り注ごうとしたの。

 世界じゅうの勇敢な人たちががんばって,みんなでそれを防ごうとしたのだけれど,ぜんぶは無理だったの。

 防ぎきれなかった大きな岩が,この星を粉々にしようとした時。一人の立派なおさむらい様がこの星の中心にあるカミサマみたいな存在に一生懸命お願いしたら,おさむらい様は死んじゃったけど,大きな岩たちはぶつかるのをやめて,そっと地上に降りてくれたの。


 ----ほんとうはね。


 あの岩たちはこの星を壊そうとしたんじゃなくて,

 ここに帰ってこようとしてたんだよ。


 だからあの岩は----


 まだわたしが小さいころ,岬の公園で。お父さんのお膝に乗っかり,この岩を眺めながら,お父さんが教えてくれたのを思い出した。


 列車が進むたび,どんどんどんどん岩が大きくなってゆく。

 そのうち,窓からはあの岩しか見えなくなっちゃうんじゃないかな。

 お父さんがいなくなった「研究所」はあの岩の麓にある。

 そう思ったら,なんだか岩がお父さんに見えてきて涙が出てきた。


 ----きゅっ。


 いつのまにか目を覚ましていたカナが,わたしの手を握ってくれた。

 これから住むお家は,あの岩のちょっと向こうにある。

 あの岩を毎日ながめて暮らすんだ。


 それはどんなふうな気持ちなんだろう?


サナ 石田紗菜>石村紗菜 9才 お姉ちゃん。ふつうの女の子。髪は学校では三つ編み,家ではポニテ。

カナ 石田佳菜>石村佳菜 4才? 無口,おかっぱ。行動の予測がつかない,ちょっと謎の存在。若干三白眼だが,黙っていればそれなりに可愛い。

お父さん 石田義雄,故人。お母さんはそれ以前に亡くなってます。

石村のおじさん 石村近江大掾義治,サナカナの今のお父さん。


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