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月琴町奇譚  作者: 斗酒庵主人
8/14

8.サミシイ

3.の続き

 サミシイ。


 その一言が,空間に満ちていた。

 銀色のコックピット----

 あらゆる有害な光線や放射線はもちろん,

 魔法による精神操作の波動すら遮断されているはずのコックピットに,

 声無き声が,

 胸の奥底から凍らされるような感情が,

 どこからともなく入り込んでは満ち溢れ,脳を揺さぶる。


 「----ちくしょう!」


 若い錬金術師はヘルムの中で唇を噛んだ。

 すでに18時間。

 味方の損耗率は3割を超えた。


 向こうに敵対の意志はない。

 そもそも「アレ」が,こちらを認識しているとすら思えない。

 だが絶え間なく撃ち続け,破壊し続けなければ,

 こちらの命はなく,人類に未来はない。


 ----サミシイ。


 巨大な岩塊が前線をすりぬける。

 後衛部隊がなんとか破壊したが,

 4つのカタマリに打ち砕かれたその一つに,また一機。

 そして残りの3つは,

 真っ赤にきらめきながら,星へと堕ちていった。


 ----カエル!カエレル!キャハハハ!


 牛小屋ほどの岩塊が,右の僚機を噴き飛ばす。

 警告音は鳴り続ける。

 無限のエネルギーと無限の弾丸。

 一秒間に300発を撃ち続け,

 向かってくる岩塊を砕き続ける。


 一つでも多く。


 それしかない,それしかできない。


 肉体的にも精神的にも,戦力としても

 すでに限界は越えていた。

 いや,もともとそれは無謀な抗い。

 分かってはいた。


 しかも,いま彼らに襲いかかっている無数の「死」は,

 ほんの前触れに過ぎない。

 計器の向こうで,真の「死」が次第に大きくなってゆく。

 その「死」に抗うため,彼らは宇宙へのぼった。


 サミシイサミシイサミシイサミシイ…


 カエル!

 カエレル!!

 カエロウ!!!!


 サミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイ…


 カエル!

  カエレル!!

 カエル!

    カエレル!!!


 ----ミンナデ!!!!!!


 コックピットに満ちる歓喜の波動。

 ひたひたと足元から押し寄せる絶望。


 ともすれば意識を手放しそうになる際


 目前の空間いっぱいに,弾幕が広がった。


 「よう----待たせたな。」



 * * * * * * * * * *


 裏通りの路地裏,

 空腹を抱えた錬金術師の少女はまた倒れていた。


 折れたカドケゥスに導かれるまま,

 この三日ほど街を走り回っていた。


 "賢者の石" の光はめまぐるしくその指す方向を変えた。

 もともと "アレ" のあるこの街で,その正確な位置を探し当てられるとは思っていなかったが----装飾もすっかり剥がれ,上半分だけになった杖。錬金術師の長だけが持つ,その証を嵌めこまれた杖を力なくながめながら,少女はため息を…つこうとして腹の虫を鳴らした。


 なによコレ!

 アンタ…ほんとうにコワれちゃったんじゃないでしょうね!?


 少女の問いに反応して,証の石は弱く発光する。

 光はビルの上のほうを指し,少女は杖をほおった。


 ----こないだのパスタ…美味かったな。


 力なく目をつぶったとたん,ビルの上から飛び降りてきた何かが,彼女の顔前に覆いかぶさった。


 ----!!!!!!


 避ける間もあらばこそ。

 驚愕に目を見開いた彼女の顔を,何か生温かいものがペロリと舐めた。

 彼女の顔をのぞきこんでいたのは,右目のところにキズのある,白くて大きなイヌの顔。

 イヌの背中には小さな女の子が跨っていた。


 「え?」


 イヌは彼女のフードを咥えると,そのまま路地の壁際まで引きずっていった----立て,ということらしい。


 「----あれ……カナちゃん?」


 喫茶「オータムムーン」の裏口から,ネコミミメイドの沙織さんが出てきた。


サナ 石田紗菜>石村紗菜 9才 お姉ちゃん。ふつうの女の子。髪は学校では三つ編み,家ではポニテ。

カナ 石田佳菜>石村佳菜 4才? 無口,おかっぱ。行動の予測がつかない,ちょっと謎の存在。若干三白眼だが,黙っていればそれなりに可愛い。

外人の女の子 腹ペコ。

沙織さん 喫茶「オータムムーン」のネコミミ・メイド。おデコ担当。ちなみにネコミミさんなので,ミミとシッポは生来の天然ものです。


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