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月琴町奇譚  作者: 斗酒庵主人
6/14

6.ミミズの出た日

主要登場動物?

 洗濯ものをとりいれる時に気がついた。


 ----地面が,うにょってる?


 斉藤さんとことの間の塀の下。

 こないだ,カナがなんかやってたとこだ。

 洗濯カゴを縁側に置いて,も一度見に行った。

 小石で囲まれた小さな花壇。

 カナの赤いシャベルが刺さってるだけで,お花も何も植わってないけど。

 なんだろう?

 地面がなんか波打って見える。


 「えい。」


 落ちてた枝を刺してみた。


 ----ぼこ。


 なんか出た……………

 なんか出たああああああああっ!!!


 ----ぼこぼこぼこ。


 ぎゃあああああああああああああっ!!!


 あわあわしながら縁側まで逃げた。

 座敷ではカナとアサギさんが洗濯物を畳んでた。


 「AうG@※れ!」


 半泣きで花壇のところを指差したけど,コトバが出てこない。スゴい数になったぼこぼこが,地面から50センチのところまで鎌首をもたげている----ガス管くらいの太さの,ぬらぬらした青くて黒くて…ぎらぎらしてるうッ!

 なにアレ!………なにアレっ!


 ----ぴうぃ!


 カナが指笛を鳴らした。

 ぼこぼこが一斉にカナのほうに向きなおった。


 ----ぴっ!


 カナの手の動きに合わせて,ぼこぼこが交代で出たり入ったりしはじめた。


 「ピョンキチ沢大ミミズ…だな。」


 「…ぴょんきちざわ・おおみみず?」


 「ああ,この国でもピョンキチ沢の周辺にしか生息していない珍しいミミズだよ。」


 ちょうど帰ってきたお父さんが,縁側からのぞきながら言った。


 ----ぴっ!ぴっ!ぴっ!


 なんか,その珍しいミミズを,妹が操ってるのですが。


 「成長の過程で地中の微小なオモイカネを取り込んでいるので,あんな金属っぽい光沢をしてるんだ。」


 ----ぴっ!ぴっ!ぴーっ!


 なんか,その珍しいミミズが,絡み合って組体操をはじめてますが。


 「最大で2メートルぐらいになることもある,国内最大級のミミズだよ。」


 「に,めーとる…」


 ----ぴっ!ぴーーーーっ!


 花のように開いたぼこぼこの中心から,シンクロナイズドスイミングのように,ひときわ大きな一匹が空中にとびあがり----わたしの意識はそこで途切れました。


 夕方,おとなりの斉藤さんが大きなザルいっぱいの野菜を持って,にこにこしながら訪ねてきました。

 うちのミミズたちが,斉藤さんところの庭の畑を耕してくれたので,今年はナスもキュウリも大豊作だと,アサギさんといっしょに出迎えたカナの頭を撫でて褒めてくれたらしい。


 プリプリのおナス,パリパリのキュウリ…美味しいお野菜をお料理しながら。

 台所の窓からわたしは空に祈っています。


 天国のお父さん,お母さん。

 わたしは姉として,妹がミミズ遣いになるのを止められませんでした。

 許してください。


 * * * * * * * * * *


 初夏のころ,家の周りの地面からジーーーーという低いうなり声の聞こえることがある。


 「ミミズが鳴いている。」


 とよく言われるが,実際にはケラという羽虫の仕業だという。


 月琴町では,ミミズが歌う。


 晴れた月の耀く夜などに,ミミズたちの歌声が静かに空間を満たしてゆく。ほとんどの人は気にもしないが,耳を澄ますと,それが(やしろ)(とな)われるお神楽(かぐら)の歌拍子に似ていることに気が付くだろう。


 大星禍の時,英雄たちとともに散った,何百万もの巫女たち----「星の子」たちを抱きとめるために唱われた,古の祝詞に。


 家人の寝静まった屋敷の真っ暗な縁側で,少女が一人月琴を弾いている。

 とつとつと奏でられる古いメロディが,彼らの声と重なるたびに,庭のあちこちで,ぽつ,ぽつ,と青い光が(とも)っては消えた。

 その光は,真っ暗な空に流れ星が流れるたび,ひときわ大きく輝くのだった。


サナ 石田紗菜>石村紗菜 9才 お姉ちゃん。ふつうの女の子。髪は学校では三つ編み,家ではポニテ。

カナ 石田佳菜>石村佳菜 4才? 無口,おかっぱ。行動の予測がつかない,ちょっと謎の存在。若干三白眼だが,黙っていればそれなりに可愛い。

石田義雄 サナカナの本当のお父さん。

石村義治 サナカナの現お父さん。

アサギさん サナカナの現お母さん(?)。


月琴町 さあ,どんな町でしょう?


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