5.カナの夢
うーんと,いろいろ伏線です(w)
地下の大聖堂はいまや崩れ落ちようとしていた。
その中でなお,八百万の巫女たちは祈りを続けていた。
聖堂の底。
擂鉢のようにえぐれた中心には,数知れないパイプにつながれ,巨大な勾玉がほのかな光を放ちながら浮遊している。
その傍らには,一人の武者。
太い眉に無精ひげ。顔のあちこちには古い傷痕がいくつも刻まれ,いかにも歴戦の勇者といった風だが,それでいて荒々しいだけではない。なにか鋭く光る,叡智や知性のきらめきといったものも感じられる。
武者は,緋縅の鎧の上から虎の毛皮のマントをかけ,降りかかる石くれを物ともせず,天頂をにらみつけたまま仁王立ちをしていた。
宇宙から通信が入った。
信頼する友の,音声だけの便りが。
----あとは,任せた。
それだけ言って,通信は途切れた。
この星に,彼が帰って来ることはおそらくあるまい。
友は…アイツは「成功」したのだ!
男は歯を食いしばった。
すべてがギリギリであることは分かっていたのだ。
最初から。
氷のように美しい少女の声が,目標が予定の軌道内に入ったことを告げた。
最期の力をふりしぼり。
自分の命を賭して。
男たちが宇宙に散った。
友とその仲間たちが変え得た角度はわずかに 0.003度。
だが,その 0.003度で,人類は救われるのだ!
友を喪った哀しみと共に,狂乱に近い歓喜が,叫び出したいほどの覇気が,男の身体を震わせた。
----あとは…任せろ!
男が片手を挙げる。
巫女たちの祈りの声が,広大な地下空間をゆるがした。
勾玉は激しく明滅しながら大きく揺れ,やがて中心の位置で静止する。
そのとたん,勾玉から発せられる目をあけていられないほどの閃光と,さまざまな音が,振動が,鼓動が何重にも共鳴しはじめた。
すべてが輝き,すべてが震える世界の中で,
男は両手を広げ,
眦も切れんばかりに目を見開くと,
世界を何度も何度も壊滅させかねないような力を,
天に向かって解放した。
「さぁこい!
おまえたちの思い,その哀しみ,
すべて我が受けとめようぞ!!」
* * * * * * * * * *
カナは目を覚ます。
夏の午後。
朝,ヘイハチローと遊びに出かけ。お昼過ぎに帰ってきてから,座敷でずっと昼寝をしていた。
お姉ちゃんはまだ帰ってこない。
新しい父さんはきのうから仕事に行ったまま。
おなかにタオルがかかっている。
自分のすぐ横でお母さん(?)が寝ていた。
なぜかウチワを手に持ったままだ。
----自分のことを煽いでくれてるうちに,寝ちゃったんだな。
そう思って,寝顔をのぞきこむ。
----黙ってれば,スゴい美人なんだけどな~。
この家に引き取られて数か月。
ここのお父さんとお母さん(?)の関係は,いまだにはっきり分からない。新しいお父さんはお母さんだと言うけど,梅ばぁは認めていないようだ。
そもそも自分が物心ついた時には,本当のお母さんもいなくなってたので,正直「お母さん」というのがどういうものなのか,カナにはよく分からない。
寝顔の口元が少しゆがんだかと思うと,アサギは跳び起き,腕を開いてカナを捕まえた。
「こらぁ!なに勝手に他人の寝顔見てるのよ!----くぬくぬ!」
抱きしめる,頬ずりする,髪の毛をぐちゃぐちゃにする,ぶんぶん振り回す。最初から避けようと思えば避けれたのだが,避けるとアサギが泣きそうな気がしたので,そのままにしておいた。
----いいニオイがする。
白くやわらかな腕の中で,カナは目をとじた。
「ただいまー。」
お姉ちゃんの声がした。
学校が終わったみたいだ。
きょうのおやつは,なんだろう?
サナ 石田紗菜>石村紗菜 9才 お姉ちゃん。ふつうの女の子。髪は学校では三つ編み,家ではポニテ。
カナ 石田佳菜>石村佳菜 4才? 無口,おかっぱ。行動の予測がつかない,ちょっと謎の存在。若干三白眼だが,黙っていればそれなりに可愛い。
ヘイハチロウ 斉藤さんとこの犬。大型の日本犬。コワモテだが「アマガミ犬」と綽名される。
石田義雄 サナカナの本当のお父さん。
石村義治 サナカナの現お父さん。
アサギさん サナカナの現お母さん---と,いうことになっている。
梅ばぁ 石田家の家政婦。お父さんに小さいころから仕えてるばぁや。若いころからゲーム狂。
月琴町 さあ,どんな町でしょう?
武者 さあ,誰でしょう?
友 さあ,誰でしょう?