3.飛空艇の姫(2)
前回の続き~。
次の日も,アオイちゃんは学校に来なかった。
わたしは転校してきたばかりなので知らなかったのだけど,アオイちゃんは年に何回か,こんなふうに何日も学校を休むことがあるらしい。
将軍さまと錬金術ギルドの交渉はうまくいったらしい。
蓮根山のソノニウムと引き換えに,新しい発電所の建築に必要な技術者を送ってもらえるんだって。
石村のおじさん…ううん,お父さんの仕事,これで少しラクになるといいね。
毎日夜遅くまで研究所にこもってがんばってる。
……お父さんと,同じだ。
本当のお父さんと……石村のおじさんは大丈夫だよね。
もう事故なんて,起こらないよね。
よそう!----変なこと考えるのは!
と,本通りに抜ける路地から近道をしようとしたら,路地のゴミ箱のところにつっぷしてる女の子を見つけた。
………えっ,外人さん?
えと…えと,どうしよう!?
「……そこのアナタ!」
えっ…えっ…話しかけられちゃった!
どうしよう!
わたし外国語なんか喋れないよぅ。
「日本語だってば……いや,えと,
ちゃんと日本語になってるよね……
食べ物……ねぇ,なんか食べるもの
持ってない?」
ヘイハチロウにあげるつもりだった,給食の残りのコッペパンをがっつく外人の女の子。
ほんと…お人形さんみたい。
臙脂色のマントに,フリルのついた白いブラウス。
ふわふわの赤い髪に青い瞳,真っ白な頬ッぺた。
そばかす,っていうのかな----鼻のあたりに少し。
パンかすだらけの口からときおりのぞく八重歯。
瞬く間にコッペパンを食べ尽くした女の子は,持ってたやたら短い杖をついて,なんとか立ち上がろうとしたけど。やっぱりまだエネルギーがぜんぜん足りなかったみたい。
膝をあげたところで,また倒れそうになった。
………………………………
「いらっしゃいませーっ!ご主人……ああ,なんだ姉チビか。」
ここは本通りにある喫茶店。
ネコミミさんたちが働く「オータム・ムーン」。
「…その肩に背負ってる赤いのはなんだ?」
「えと…ね。あはははは。」
黒文字の楊枝をポケットから出して咥えなおした,愛想のないネコミミ--いやこの人はイヌミミさんか--テスラさんの後頭部を,沙織さんのお盆がぶッ叩いた。
「いつも言ってるでしょ!----
いくら知り合いでも,接客はていねいにって!」
ピクピク動く黒い耳と尻尾とおでこが今日も可愛い----沙織さんのお婆ちゃんは,むかし梅ばぁと同じお仕事をしていて,北楼のゲーマーお梅・南楼のネコミミお久と並び称されたライバルだったそうな。
「オータム・ムーン」は,お父さんが忙しくて家で晩御飯が用意できないような時,カナやお母さんとよく来るお店。よく来るから,ここの店員さんたちとはみんな顔見知りだ。
入ってすぐの窓際の席によっこらせと女の子を置いて,沙織さんに食べるものを何か,急いで,と注文。厨房から顔を出してのぞいてたアリサさんが,すぐに大回転しはじめた。
数分後。
大きなお皿に山盛りのスパゲティを3杯と大きな丸パンを4つ平らげた女の子は,ようやく幸せそうな顔になったけど……すぐにこんどは,ぷんぷんと怒りはじめた。
「----ほんとに,もうッ!!
ちょっと脅したくらいで,
スマキにされて上空1万メートルから
叩き落とされるとは思わなかったわ!
これが友好国の全権公使にすること?
あんたンとこの元首,アタマおかしいんじゃないッ!?」
「はあ…」
いかん…この子,何言ってるんだろう?
分からないよ。
「杖も半分以下にぶッた斬られちゃうし…
なぁにが "ご自分でお探しあそばせ" よッ!
ホント,いけすかないッってば!!」
それはいいんだけど,口の周り拭いたら?
ケチャップまみれだよぅ。
----コンコン。
誰かが席の横のウィンドを叩いた。
見ると窓の外で,ヘイハチロウに乗ったカナがこっちに手を振ってた。
サナ 石田紗菜>石村紗菜 9才 ふつうの女の子。髪は学校では三つ編み,家ではポニテ。
カナ 石田佳菜>石村佳菜 4才? 無口,おかっぱ。行動の予測がつかない,ちょっと謎の存在。若干三白眼だが,黙っていればそれなりに可愛い。
ヘイハチロウ 斉藤さんとこの犬。大型の日本犬。コワモテだが「アマガミ犬」と綽名される。
アオイ 舘花葵 10才 紗菜のクラスメートで友達。色白でツヤツヤの長い髪。背は紗菜より少し大きいくらい。時々何日も学校を休む。
ミコちゃん 10才(?) 神社の娘。紗菜のクラスメート。いっぱいいる。
外人の女の子 さて誰でしょう?
月琴町 さあ,どんな町でしょう?