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少女


 見つかってしまったなら、きっとすぐに連れ戻されてしまう。

 それではつまらない。


 逃げよう。逃げてしまおう。

 だれも来ない場所にまで。

 だれも僕を知らない場所にまで。

 逃げたことを、後悔する日が来るまで。


 夜なのだから外を歩く人はもとより少ないが、それでも徹底的に目撃情報が挙がらないようにしておこうと、人影さえも見られない小道を、裏通りを歩いた。

 まだ街の中にいるというのに、僕にとっては未知の世界だ。


 世界を知る人は、最初から広い世界を持っている。

 しかし狭い世界しか持っていないからこそ、街という小さな場所さえ、僕には広く感じられるというものだ。

 街しか知らなければ国は大きく、国しか知らなければ世界は大きく。

 だから部屋しか知らなければ、街ですら大きい。


「あれ、随分お前ぇは金を持ってそうじゃねぇかい」


 歩いたり走ったりして逃げたならば、遂に街の外へと出た。

 どこかから声が聞こえて来て、生憎僕には気配を感じる力などないのだから、当然暗闇の中ではわかりやしなかった。

 驚きながら振り返る。


 そこに立っていたのは、いかにも、育ちの悪そうな少女であった。

 小汚い服で、顔まで土塗れで、神は伸び放題に荒れている。


 今までに、見たことがないようなタイプであった。


 知らないから、物珍しくて、好奇心を持ってしまっただけなのだろうと思う。

 それなのに、惹かれてしまっているように思えて、不思議でならなかった。

 僕には魅力的に思えた。


「すみません。お金というものは知っているのですが、現金は持っていないのです。というか、僕は現金を見たことがないのですよ」

「金持ってそうなのに、全く金を持ってないってか? そんな嘘は止せって。何も、まだ盗むって決めたわけじゃないんだ、あたしゃ人情派の盗賊だからね」


 盗賊……。

 人のものを盗むことを生業として生きる、凶悪な犯罪者であると僕は認識している。

 それはいつも、本の中では、治安の悪さの象徴として登場した。

 それ自体が悪というものになることはなく、悪の対象とはなっても、更なる凶悪の前座のような扱いであるように思えるものだ。


 僕にとってはファンタジーで、実際に存在しているとは知らなかった。

 本当に僕は、危険というものそのものに出会ったことがないのかもしれない。


「求めたものを購入するために、お金が必要であることはわかりますが、本物のお金が何であるかは……わかりません。よろしければ、僕に教えて頂けませんか?」

 この少女が危険だという可能性を、考えないわけではないが、好奇心に負けて僕はそんなことを頼んでしまっていた。

 闇で相手の表情は読み取れない。


 薄汚い彼女の気持ちなど、閉じ込められていた僕にはわからないだろう。

 明るく表情が照らされていたとしても、わかりやしないだろう。

「もしかしたら、あたしなんかじゃ想像もつかないような、半端ないお坊ちゃんなのかもしんねぇな。面白れぇ、本気ならあたしんとこに来な」

 外へ出るのだから、警戒心を持とうと努力しただけあって、彼女のことを疑うという感覚は持ち合わせることができた。

 なのに僕は去ることなどできなかった。

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