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勉強と心


 知識を持っていても、活用方法を理解できないような、暗記と記憶だけの僕とは違っている。

 考えるという点においては、やはり彼女の方が適しているのだろう。


「あなたは、学びたいと思いますか?」


 彼女が望んでくれるなら、僕は彼女と一緒にいて、そして……


 自分の希望がどこにあるのか、とてもわかったものではなかったけれど、僕はそのような質問をしてしまっていた。

 彼女の才能を買ってのことのような気もした。

 ただ、彼女のことをもっと知りたいと、そう思っただけのような気もした。


 もし本当に後者であることがありえるとしたら。

 だとしたら、それはもう、僕ではなくなっているとも思う。



 だから、怖くて堪らなった。

 僕がどこにいるのか、今の僕は理解していないのだと思った。



 僕は僕だし、僕は僕でしかない。

 当たり前のことだけれど、大きく巻き起こされた変化は、その当たり前さえ当たり前ではなくしてしまうようだった。

 今の僕は、僕ではない。


 少し悩んだ素振りを見せる彼女。

「そうだな。許されるなら、学びてぇよ。あたしだって、お前ぇみてぇにお上品になりてぇって思うし、いろいろ知ってたらそりゃ楽しいだろうなって思うぜ。知ることもまた、楽しいことだって思うんだ」

 理由は不明だが、迷いは残されている様子ながらも、彼女はそのような答えを返した。

 許されるなら、学びたい。


 しかしどうして、許可などが必要になるのだろうか。

 学びたいなら学びたいでいいはずなのに、それで十分なはずなのに、どうして許されるならなどと彼女は言うのだろう。

 彼女は何に縛られているというのだろう。


 許しを請う相手なんて、いないはずじゃないか。

 自分の力で生きているのだから。

 自分自身で生きている、たった一人でも生きられる、そんな彼女なのだから。

 許しを請う必要も相手も、いないではないか。


「では、家庭教師を雇いましょうか? それか、学校に通いたければ、子どもを呼び集めて特別に学校を開設させますし、独学で努力したければ書物を用意しますけれど」

「ありがてぇけど、そういうことじゃねぇんだ」

 何を望んでいるのかがわからなかったので、様々な提案をしたのだが、そのどれも気に入らなかったというのだろうか。

 彼女は即答で否定してきたのである。


 そういうことじゃないって、どういうことなんだ。

 考えたところで、僕にはわからないことなのだろうと思った。


 もしかしたら、僕には感情を理解することさえ、できなくなってしまっているのかもしれない。

 完全に、人形に……。


「金を掛けてもらっても、なんか、申しわけねぇような気がしちまうしよ。それよりも、どうせ勉強を教わるんだったら、あたしゃお前ぇ自身に教えてもらいたい、ぜ?」

 どうしたら彼女が喜ぶのかがわからず、凹んでいたところに、そのような言葉を彼女は僕に告げたのである。


 僕自身に教えてもらいたい。

 その言葉の真意は、その解釈は、僕が正しくできているのか。

 確証はないけれど、それはきっと、彼女が僕と同じ気持ちになってくれているということなのだろうと思った。

 ポジティブにも、そのように思えた。


 できることなら、一緒にいたい。

 お互いにその気持ちが通じ合えているように思えた。


 月夜の舞踏会は幻ではなかったのだ。

「お腹を満たしましたら、急に眠くなってしまったような気がします。もう僕は眠るとしますよ。あなたもお疲れでしょうから、お眠りになってはいかがでしょうか。布団が用意してあるはずです」

 感情の表現方法もわからず、僕は彼女に背を向けた。

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