愛はときに歪である
月が見える。
まるい月。
光り輝いているのね。
星が見える。
こぼれる星。
どこに落ちていくのかしら。
「君は、なんにも知らないんだね。」
そう言って、博士は私の頭を撫でる。
暖かい手。私はこの手が大好き。
「何も知らないのも当然よ。私はついこの間、博士につくられたのだもの。」
博士はそれもそうだと言って小さく笑う。
二人で並んで座る草原が、昼間に降った雨のせいでじめじめとしている。
「君は色んなことをもっと知りたいかい?」
博士は空を見ながらそう問いかける。
「博士が教えてくれるなら知りたいわ
その暇があるならば、だけれど。」
意地悪くそう言うと、博士は困ったように笑った。
「ごめんよ。今日の朝も仕事が立て込んでいたんだ」
「知ってるわ。だってその間、私は暇だったもの」
申し訳ない、と博士は私の頭を撫でる。
これをされるとなんでも許してしまうから、博士は本当にずるい。
「…でも、もう大丈夫だよ。今日からはたくさん話そう。この世界のことを。」
「……仕方がないからそれで勘弁してあげるわ」
博士は、ほんとうにずるい。
あなたはいつだって自分のことを語らない。
でも、私だって知っていることはあるのよ?
あなたの実験室に、たくさんの子供達が眠っていたということ。
その子達はみんな、息をしていなかったということ。
その子達はみんな、私に似ているということ。
その子達はみんな、今朝にはいなくなっていたということ。
でもね、私は黙っているの。
何にも知らないふりをするの。
だって、
「さて、何から話そうか…」
博士がこんなに幸せそうなんだもの。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
博士と「少女」の歪な愛のあり方を感じていただければ幸いです。