2018/7/19 練習
香ばしいコーヒーの匂いが、肩の力を抜かせた。
窓ガラスを通して、柔らかな日差しが差しこんでいる。昼を少し過ぎた頃だというのに、目の前の通りは人影が少ない。近頃は、茹だるような暑さが続いた。休日くらい家で涼んでいたい、という人々が多いのだろうか。
店内を見回しても、滞在者は僕達しか居なかった。窓際にある二人掛けの席に、僕達は座っていた。僕は、先ほど書店で何となく購入した文庫本を開いている。相対する彼女は、陽だまりの中に腕で枕を作り、小さな頭を埋めていた。
「気持ち良いねー」
と気の抜けた声を出す。紙の上から視線をずらさずに、僕は簡単な相槌を打った。
「もー、ちゃんと話聞いてる?」
流石に見抜かれていたようで、ガバッと顔を上げる。
「また適当に返事して!そんなのじゃ愛想を尽かしちゃうぞ」
作り慣れていない皺を眉間に寄せた。
「涎、垂れてるよ」
口の右下を指さす。
彼女はえ、え、と焦りながら裾で口元を拭った。
「で、なんだっけ?」
「また意地悪するんだもんね」
自然と2人は笑みを零した。
「もう少しゆっくりしていく?」
「そうしよう」
はーい、と彼女は答えると、両手で頬杖をついた。その視線の先には夏の景色が広がっている。
僕はインクの列に舞い戻る。視界の端に映る横顔は満足そうだった。