4話
ここは「勉座高等学校」。今日も様々な生徒が登校している。
「よぉ洗井!朝からお疲れだな!トイレ掃除のやりすぎか?」
長身でツンツン頭の男が洗井に話しかける。洗井友達のようだ。
「あ、おはよう!って何かまるで俺がいつもトイレ掃除しているみたいな言い方だな。」
「違うのか?」
「毎日はやってないよ。」
この二人は友達である。基本的にアニメ、漫画、特撮など様々なことをいつも二人で話している。
「全く仲が良い奴らだな…ヒーローになれた次の日だぜ?学校何てサボっちまえよ。」
トイレ君が洗井に話しかける。しかし、洗井は無視をし続けている。
それにしても学校の皆がトイレ君を気にしていない。どうやら洗井意外には見えないようである。そしておそらく声も聞こえていない。
「皆、席に着け。出席を取るぞ。」
担任の先生らしき人物が入ってきた。この先生は昨日洗井とトイレ掃除をしていた先生と同一人物である。
「お、じゃ洗井またな!」
「おう!」
洗井の友達は席が遠いようで自分の席へと戻っていく。
「時間にうるさいのはこっちの世界も一緒だな。」
トイレ君が呟いた。
放課後である。外は綺麗な夕焼けで日が沈み始めている。
「あっ今日もトイレ掃除の手伝いを頼まれているんだった!」
洗井は思い出すとトイレへ向かう。時間ギリギリというわけではない。
「おう!じゃあ今日も頼むぞ!」
「はい!」
先生が洗井に語りかけ今日もトイレ掃除が始まる。
「おーい!ヒーローとしての活動は良いのか?」
トイレ君が洗井に語りかける。
「いや、これもヒーロー活動だから。」
洗井は小声で答える。それもそうである。洗井はトイレ掃除に誇りを持っている。
「確かにかすかだがカオス因子が溜まってきているな。だがいいのか?折角絶大な力を手にしたんだぜ?もっと色々使おうぜ。」
「いや、というか何か悪役みたいな発言だな。」
洗井またまた小声で答える。
「うるせぇよ。」
それに対してキレ気味にトイレ君が答える。
「ん?誰か他に居るのか?」
先生が実に不思議そうに洗井に語りかける。
「いえ、何もありません。独り言ですよ。」
洗井は怪しまれないように冷静に返答をする。下手すればヤバイ奴扱いされかねない。
トイレ掃除が終わる。
「今日もご苦労さん!」
「いえいえ、ヒーローとして当然のことをしたまでですよ。」
「ヒーロー?まぁ確かにトイレを愛する者にとってはヒーローかもな。」
「そ、そうですか?」
洗井は照れながら答えた。
「ヘヘヘ…じゃあまた明日!」
「おう!また明日な!」
下校中である。洗井は今現在、駅へ向かっている。
いつも通る公園の前を通り過ぎようとするとトイレ君が呼び止める。
「止まれ。」
トイレ君は真剣な眼差しでそう言った。
「え?何?」
洗井は不思議そうに聞いてみる。一体この公園に何があるというのか。
「ちょっとばかしヤバイもんがいるぜ。こりゃぁ面白そうだぜ!」
トイレ君はニヤリと笑いながら言った。
「それってどういう?」
「いいから公園のトイレに急げ!」
トイレ君は急かす様に言う。
洗井はしぶしぶと公園のトイレに向かう。するととんでもない者がトイレの中に居た。
それはトイレットペーパーのような頭、そして体は特撮に出てくるような怪物のような体、そして全体が灰色で身長は2メートル程あった。
「え?ちょっこれ何?」
「お前には聞かれなかったから言ってなかったが俺が済む世界か以外から来た奴らもいるからな。そいつらと戦うのもヒーローとしての役目だ。だが安心しろあいつらも強い肉体は持っていない。本体はただのモロい球体だ。ただあいつらは俺と違い何かを媒介にすることにより即座に強い肉体を作り出すことができるからな。そして今回もうすでに肉体は作り出されている。めんどくせーパターンだな。」
トイレ君は得意げに説明をした。
「聞かなくても教えてくれよ!」
「まぁいいじゃねーか!ヒーローとしての力を見せてやれ!幸い周りにも人は居ない!思う存分暴れろ!」
トイレ君は珍しくテンションを上げて言った。
「怖いな…テレビで見るスーツでできた怪物とは全然違うし…」
「いや…でも…」
洗井は顔をしかめる。どうやら覚悟を決めたようだ。
次の瞬間洗井は変身した。変身ポーズや掛け声は無かった。緊張していたからだろうか。
「うおおおお!」
洗井は殴りかかる。しかし、暴力とは無縁な生活を送ってきたせいかヒーローとしてのパワーが十分に出せていない。それでも大幅な身体能力の強化はされているようで怪物以外にこの力を放ったら死んでしまう程である。
「負けちまうぞ!何とかしろ!」
トイレ君は上から目線で言った。
「そ、そんなこと言ったって…」
洗井はすっかり弱気である。
「(いや、何を怖がっている違う俺はヒーロー何だ。ここでやらなきゃ誰がやるんだ!)」
洗井は心の中でそう考えた。
その後洗井は先程より気合を入れて怪物を殴った。
すると怪物は吹き飛ばされ遊具にぶつかった。遊具は凹み壊れてしまったが怪物も大打撃を受けているようだ。
「す、凄いパワーだ…!」
洗井は驚きを隠せない。
「いいぞ!そのまま奴の腰にあるコアを壊せ!」
トイレ君は怪物の腰にある水晶玉のような物を指差し叫んだ。おそらくこれがコアだろう。
「分かった!」
洗井はコアに狙いを定めて殴りかかろうとする。
しかし、怪物にガードされる。
「クソッ!」
それだけではない明らかに向こうの動きが速くなっている。本気を出してきたということだろうか。
「くっ!」
洗井は怪物に殴られ吹き飛ばされ公衆トイレの壁に激突する。ぶつかった壁の一部は崩れてきてしまっている。
「おい!負けちまうぞ!」
トイレ君がまた叫んだ。
「相手が強いんだけど弱点とかないの!?」
焦りながら洗井はトイレ君に叫んだ。
するとトイレ君はやれやれという顔で洗井に叫ぶ。
「弱点は知らねぇ!俺ですらな!だがお前ならまだやれる!力を解放してやれ!」
「ち、力?」
「ああ!ヒーローになった者は何か一つ能力を授かっているはずだ!お前にも当然あるはずだ!」
「それってどんな?」
「分からねぇ!能力を使いたいと念じろ!」
「わ、分かった」
放している間に怪物がまた殴りかかってきた。洗井は怪物の攻撃を避けると心の中で能力を使いたいと念じる。
一体洗井にはどんな能力が眠っているのだろうか。
「(はああああああああ!)」
「こ、これは…!?」
洗井の手には先程まで無かった物が握られていた。
棒状のような物、そして先端にはおわんのような形をしたゴム状の物が付いていた。
「トイレでスッポンスッポンする奴だ!マジかよ!」
いわゆるラバーカップという物である。トイレ掃除といえばこれをまず連想する方も多いのではないだろうか。
「んだそれは!フザけてんのか!」
トイレ君は笑いながら言った。
「いや、フザけてないって…クソっ一か八か!」
洗井はラバーカップを剣に見立て薙ぎ払い、相手を切るように攻撃した。
能力で作られた物体というだけあって頑丈だった。更に怪物に対してダメージもあったようだが所詮はラバーカップ。戦闘には向いていなく、すぐに怪物の反撃を許した。
洗井は必死に避けながら考える。
「(おいおい、弱すぎだろ…というか俺の能力って結局何なんだよ!もう1回だもう1回!)」
洗井は能力を出そうと再び念じる。すると今度は明るい緑色をした丸い匂い球が洗井の手の中に出現した。能力で作られただけあって匂いも強烈で生身の人間が直に嗅いだら倒れそうなレベルである。
「(また約に立たないような物が出たぞ…いや、トイレ掃除になら使えそうだけど…ん?トイレ掃除?)」
洗井は何かを考えたようで匂い玉とラバーカップを怪物に投げつけた後にまた念じる。
すると今度は洗井の手にはトイレ掃除用のスポンジブラシが握られていた。
「(やはりな!分かったぜ!俺の能力が…俺の能力はトイレに関する道具の召還!しかも普通のよりも効力、耐久性は格段に上!)」
能力を理解できた喜びから心の中でガッツポーズを取る。だが解決には至っていない。
「ってやばいよーどうするんだ一体!?」
「おい!早く倒しちまえよ!」
トイレ君が急かす。
「(弱点…弱点は何か無いのか…)」
洗井は攻撃を避けながらも相手を集中して観察している。
「(あいつ…トイレットペーパーみたいだな。トイレ君の説明通りに考えるとトイレットペーパーを媒介に体を作っている可能性が高いな…ならば一か八かだ!)」
洗井は怪物に背中を向け、男子トイレの中に駆け込み個室に入った。ここには和式トイレしか無い。
「(よしっ!いくぜ!)」
洗井はブラシを和式トイレの中に突っ込む。
ブラシのスポンジが水を吸い取る。
その間にも怪物は迫ってきている。洗井はそれに気づくとスポンジにトイレの中の水が染み込んだブラシを持ちトイレを出る。
「いっけええええ!!!!!」
洗井はスポンジブラシを怪物の頭、即ちトイレットペーパーのような頭に叩きつける。
「グッガアアアア」
怪物は苦しんでいる。
「(やはりな!トイレットペーパーは水に弱い!)」
洗井は心の中で得意げになった。
「やるじゃねぇか!コアを破壊しろ!」
「あぁ!」
洗井は怪物のコアを殴りつける。
一発目でヒビ、2発目で割れた。見た目がコアの外見が水晶玉みたいだったこともあって破片もキラキラとしている。
「や、やったか!?」
コアからは黒いモヤのような物が出ている。
そして空中をしばらく漂った後、それは消滅する。
「やったな!」
トイレ君が言った。
「あぁ…」
洗井は変身を解くと少し残念そうに答える。
「どうした?」
「いや、怪物と言えど殺すのはよくないかなぁって…」
「はぁ…何かお前はヒーロー向けじゃないな。」
トイレ君は呆れている。
「だが、心配する必要も無い、あいつらはコアとなってこの世界にやって来るが本体は中身の煙みてぇな奴だ。殺してねぇ。まぁコアが砕かれれば何もできなくなって元の世界に戻っていくがな。」
「そ、そうなの?よ、良かったぁ…」
洗井は安心する。
「それにしてもお前の能力はショボイのによくやったよ。それだけは褒めてやる。」
「やっぱりショボいんだ…」
「まぁな。」
洗井とトイレ君は家へと向かった。壊された遊具とトイレの壁がある公園を後にして。
「弁償とかないよな?」
「知るか。」