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星の降る丘

作者: 影峰柚李

海の近くにある小さな村に、星が降る丘があった。

その丘に登れるのは毎年お狐様に選ばれた者一人。

今年も星が降る季節が来た。

村人たちが丘のふもとにある神社に集い、お狐様、お狐様、と

手を合わせて祈り出す。

その様子を見ていた雄二は、馬鹿にするようにふん、と鼻を鳴らした。

それを横で見ていた脩は「何が気に入らねえん?」と控えめに聞いた。

「お前もおかしいと思わねえんか、あんなに揃いも揃ってお狐様ぁ、って

手ェ合わせてんのよ」

「おかしかあないよ、星の丘に登って星を取れるのは一人しかいねえんだもん」

「星をとって戻ってきたやつなんていねえじゃねえか、あんなもん

生け贄と何も変わんねえじゃねえかい、やっぱりおかしいね」

星の丘に登って戻ってきた者はいない。

だが、お狐様に選ばれる事は町の名誉であった。

脩はお狐様を馬鹿にする態度を取る雄二を宥めるように

「お狐様を馬鹿にしたらバチが当たるよ」と言ったが

雄二には逆効果だった。

「お前、お狐様が怖いってのか」

「そりゃ、怖いよ。だって、町の守り神さんだもん」

「ばっか、守ってくれた事あったか?」

悪態を止めない雄二の頭に、石ころが飛んできた。

「いってぇ……、誰だ!石ころ投げたやつは!」

二人が後ろを振り返ると、そこには一匹の狐が

凛と、座っていた。

「わあ、ゆうちゃん!お狐様だよ!

ゆうちゃん、お狐様怒らせちゃったんだよ!」

「そ、そんなわけあるかよ、狐くらいいるっての」

「ほう、狐が喋ったとしてもか」

「わあ!」

狐が人の言葉を話すと、二人は驚いて後ずさった。

座っていた狐も立ち上がり、二人に近づく。

「全部聞いていたがね、私は怒ったりはしない。

だけれど、君の話は放っておことも思わない」

「な、何するってんだ」

「君たちを星の丘に招待するのだよ」

突然のことに脩は雄二の服を掴んで責めた。

「どうするの!ゆうちゃんのせいだよ!」

「ひ、人のせいにすんじゃねえよ!」

わああ、と泣き出してしまった脩と、どうしていいか分からない

雄二を見ながら、狐は笑って

「何も、怖がることではない。星の丘は死への階段ではないのだよ」

と言った。

「まあ、来ればわかることだ。今日の夕暮れ時に迎えに行くからね」

それだけ言って狐は消えてしまった。

二人は唖然と、立ち尽くすしかなかった。


親に言うこともできないまま、脩は泣いたまま、

夕暮れ時を迎えてしまった。

日は既に半分ほど沈んでいる。

沈む夕日を、二人は無言で眺めていた。

お狐様は一体いつ迎えに来るのか、いつ来るのかとドキドキしながら

じっと、待つ。

そして、夕日が消える瞬間、ピカッと周りが輝いた。

あまりの眩しさに二人は目を閉じる。

目を開けた時には、既に丘の上へと来ていた。

「ゆ、ゆうちゃん……」

「俺たち、とうとう来ちまったんだ……」

まだ夕日のオレンジが残る夜空に光る星が

流星のように辺りに降り注ぐ。

「気に入ったかね」

星と共に舞い降りたお狐様が、二人に語りかける。

「星の丘に登るということは、決して生け贄になる事ではないのだよ。

丘を下れば村へと帰れるからね。けれど、皆帰ろうとはしない。

この景色を見た者は星の虜となってしまうのだよ」

二人はお狐様の話をほとんど聞いていなかった。

ただただ、降り注ぐ白い金平糖のような星を見ていた。

そんな二人を見ながら、お狐様は話を続ける。

「星を村へと持ち帰るのが選ばれたものの役目。

なのに皆星を持って行こうとはしない。

だから私は毎年人を選び、この丘へと招待するのだよ。

星を持ち帰らせるためにね」

星が二人の頭上に降り注ぐ。

二人はすっかり座り込んでしまって、動こうとはしない。

お狐様は二人を置いて神社へと帰る。

「また、来年も人を選ばなければならないようだ」


結局、時が経っても二人が村へ戻って来ることはなかった。

村には今年も星が降る。


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― 新着の感想 ―
[一言] 始めまして。 随分と幻想的で詩的な神隠し伝承だと思いました。 日本の神とは気まぐれなものなので、神の意思にそぐわない者を毎年選んでしまうと言うのにも納得がいきます。
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