君は本当の姉が残した生きていた証1
勉強は年齢関係ない。
僕はそれを信じていなかった。
あの子、新咲市架を引き取るために、市架くんと一緒に生きていける年収を手に入れるため、僕は執着するかのように勉強をした。
人間不信な僕は学生の間、個人運営の古本屋で働いていた。今まで、自分にとってトラウマに感じるようなことばかりだったため、怖くなるくらいに、騙されているんじゃないかと思うくらいに古本屋に来る人は僕に良くしてくれた。
僕がこうして、社会生活を送れるのは、彼らのおかげ。彼らは僕の心の状態を察してか、距離を徐々に縮めていくように接してくれたが、僕は未だに彼らと、根気良く接してくれた同僚以外に対して以外は、人間不信なのは変わっていない。幸い、営業課ではなく、開発課だったため、その同僚に支えてもらいながら日々社会人として働いている。
働く人達の中で働いている時、時々思う。努力を重ねれば、勉強はいつでもやり直しが効くんだと、心の底からそう感じた。
それまでは引きこもりだった僕が高卒試験を受け、受かり、私立大学に通って、他の人とはだいぶ違うペースで遠回りな人生を歩んできたが、まず一つ目の決意は達成することが出来た。
市架を、あの人達に任せてはいられない、自分のような思いをさせたくはないから、本当に信頼出来る人達に協力してもらいながら育てて行こうと思っている。
まあ、信頼出来る人が出来たとは言え、僕の人間不信が治った訳ではないんだけど……。彼らを信頼出来るようになったのは、僕に対して嫌な顔をせず、どんなに避けても接し続けてくれたからだ。
僕の人生もあながち、悪いものじゃないのかもしれない。きっと、僕は不器用で、人と接する機会が少なかったから、感情の境目がわからないんだと思う。たった一人の女性を恋愛的な意味合いで好きになることが出来ず、僕は人生を終えるんだと思われる。
だからこそ、僕は君を大切に育てるよ。いつか、僕を必要としなくなるまで、ずっと君の側にいる。
「……実際に会うのは、初めてだね。随分と待たせてしまったね、申し訳なかった。これからは僕と暮らすことになるが、嫌ではないかい?」
ーーもし、嫌だったなら、君が望むように手配しよう。
そう言うつもりだったが、君は僕にその言葉を言わせることなく直ぐに首を振って、都合の良い僕の思い込みかもしれないが、行かないでと言うかのようにスーツの裾をギュッと掴んだ。
その仕草でわかる。
顔色や声色ばかり窺って生きてきた僕には、君が僕なんかを必要だと感じてくれてるのはわかったから、言おうとして言えなかったあの言葉を言う必要がないと察し、僕はその言葉を考えていなかったことにした。
子供は大人の変化に敏感だ。子供は周りの大人やその環境によって、その子供の性格は変わる。だから、僕は君の意見を聞いた、僕の親は子供の意思関係なく自分の意思ばかりを通していた。そんな僕や姉のようにはなって欲しくない、君の笑顔の絶えない日常にして行きたいと思ってる。
「……行こうか」
君が僕なんかを選んでくれるなら、僕は喜んで手を差し出すよ。不器用な僕なりの、できる限りの歓迎だ。
歓迎していること、君は気づいていないかもしれない。
君は迷わず僕の手を取ってくれたことは、僕にとって何よりも嬉しかったこと、これはいくつになっても忘れられないことになるだろう。