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十三月の物語

六月の試練

作者: アルト

 私は猫である、名前はミィ。

 どこかの路地裏で生まれ、野良の人生を歩んでいる最中、入り込んだ家で捕獲され今に至る。

 日中、家の出入りは自由にできるが、お気に入りはベランダの手すり。

 干された布団の上である。


「ミィちゃん危ない!」


 彼女は私がここに上って日向ぼっこするたびに捕まえに来る。

 今日もいつものように、抱きかかえられた拍子に干された布団がずり落ちる。

 私としては、ここが危ないとは思わない。

 それに落ちたとしても四階程度、この高さなら大丈夫。

 人間には危ないだろうけど。


「君の方が危ないと思うんだけどねぇ」


 彼は部屋の中、本を広げて勉強している。

 なんでも資格を取るために頑張っているらしい。


「もう、そうやって大丈夫大丈夫でいつか大怪我するんだよ」

「悪いことが起こると思うからそうなるんだ」


 パタン、と本を閉じて彼がこっちに来る。

 今日の服装もいつもと同じでジーパンにシャツだ。

 今年はやけに暑く、もう半袖。


「ほら、布団が落ちるよ」


 振り向くとゆっくりと落ちかけていたお布団が。


「あっ」


 彼女が私を下ろして布団に手を伸ばす。

 その瞬間にずるっと落ちた。

 少しばかり勢いをつけて彼女が手を布団に伸ばす。

 でも、


「きゃっ!」


 布団の重さに引っ張られてそのまま手すりの向こう側に。

 私は無駄と分かりながら彼女の足にしがみついた。

 一緒に空中に投げ出されてしまう。

 そしてダンッ! と叩き付けるような音が聞こえて彼女が引きずり上げられた。

 代わりに彼が落ちた。

 彼女を思い切り引っ張り上げた反動で立場が入れ替わったのだ。

 このままだと、私は大丈夫でも彼が……。

 ごめんなさい。もうあんな場所に上りません、だから誰か助けて。

 空中で体勢を立て直しながら彼のほうを見ると、人間にしては器用に身体を回転させていた。

 そして、重力に押され、勢いのまま地面に落ちた。

 ドゴっと重たい、痛々しい音が響く。

 四階のベランダからは彼女の悲鳴が聞こえる。

 彼は……、


「……………………大丈夫か、ミィ?」


 人間ですよね、彼は?

 華麗な受け身で衝撃を逃し、無傷です。

 しかも自分より私の心配をしてくれています。

 私は目を丸くして彼を見た。


「うん、ケガはないみたいだね」


 彼の手に持ち上げられて、腕に抱えられる。

 なんだか落ち着く感じである。

 彼の顔を見上げていると、着地の音を聞きつけたらしい住人や、管理人さんが姿を見せた。


「なんですか今の音は?」

「いや、すみません。すべって落ちちゃいまして」


 彼は軽く笑いながら四階の部屋を指さす。

 皆さんの顔が若干ながら引きつっているのはどうしてだろう。


「確か……あなたの部屋って四階でしたよね?」

「ええそうですよ。今度からは気を付けますんで、それでは」


 周りの変な視線を躱しながら、私を抱えて彼は部屋に帰った。

 そこでは彼女が涙を流しながら安堵していた。


「もう! バカぁ!」

「助けなかったら君が大怪我してたんだけど」


 ポカポカ彼女に叩かれながらも、彼は慰めていた。

 それにしても、彼はいったい何者なのだろうか。

 私を捕まえた時も、並みの人間の反応速度ではなかった。

 


 後日、住民の集会で彼はこっぴどく叱られてた。

 途中から目撃していた人は飛び降り自殺かと思ったとか思わなかったとか……。

皆さん、高所からの落下には気を付けましょう。

くれぐれも落ちないように。

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