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援軍

 駿府城の徳川家康は信濃から次々とやってくる使者の情報により状況は把握していた。

 

 「飯田の小笠原秀正へ高遠城に援軍に向かえと伝えよ」


 まずは高遠城に近い飯田城から援軍を向かわせる。


 (信幸は出来者。秀忠めが粗末に扱いさえせねば、良かったものを。仕方ないのぅ。

 飯田からは千兵ほどじゃな。しかし、腑に落ちぬな。高遠は上田から遠い。真田はそれほど人材や兵が豊富なのか?それとも、他に狙いがあるのか?

 待てよ……上杉、前田は豊臣方となった。やつらと何やら企んでおるのか?)


 家康は地図を広げ思案する。現状、豊臣方は大阪に兵が集まっているが、動きはない。今の所は信濃で真田信幸が活発なくらいだ。


 (高遠攻めが陽動とすれば、豊臣の本当の狙いはどこか? 

 前田利長が加賀から動くか?それとも上杉が動くか? 

 前田が動くとすれば、こちらの抑えは結城秀康。じゃが秀康は豊臣贔屓。どう動くかどうか分からぬな。

 上杉景勝が動いたらどうする? 上杉単家であらば伊達や佐竹、蒲生で抑え込めるか。だが上杉が動くとなれば呼応し合力する大名がいる可能性がある。

 迂闊には動けぬ……)


 さすがに家康は信幸の高遠攻めが不自然であり、陽動ではないかと読む。しかし家康の思考は上杉、前田に向けられた。大阪が動くとは考えていなかった。

 家康は高遠城に関しては飯田からの援軍を命じただけで様子を見る事とした。仮に高遠城が落とされた時は、駿府から自ら兵を率いて迅速に奪い返した上で上田まで攻め登ろうと思考を纏めた。



●高遠城攻城軍搦め手

 仙石秀久は搦め手前に布陣し陣を構築すると兵達に食を取らせる。


 「腹が減っては戦は出来ぬぞ。食っておけよ。だが腹いっぱい食ってはいかん。少々物足りぬくらいが良いぞ」


 口を動かし食い物を腹に入れれば兵達が落ち着く。多くの戦の経験から秀久はそれを知っていた。腹に物を入れて、すぐに戦となれば体に負担がかかるが、まずは気を落ち着かせることを優先したのである。

 秀久はすでに飯田に向けて物見を放っている。援軍が来るのを見越しての事だ。


 (飯田から援軍がくれば城兵達は活気付く。城から躍り出てくるやもしれぬ。その時は兵の少ないこちらに出てこよう)


 秀久は城兵が打って出た時に信幸に向かわぬように少ない兵を率いたのであった。千兵の内訳は鉄砲隊百五十、槍隊八百三十、騎馬二十である。


 「ふむ、櫓門か……。堀は水が少ないな。

 これ、者ども食い終わったか? ならば腹ごなしじゃ。槍隊の三百の者はその辺の石や木材を堀に放り投げよ。近くの竹を切り五本づつ束ねて放れ! 鉄砲隊は援護じゃ! 」


 秀久は門に続く橋周辺の堀を埋めるよう命じた。実際には堀を埋めても攻める時には大して変わらない。だが城に籠っている兵達にすれば防御力が削がれて心配になるのだ。いわば城兵の士気を落とす為だった。



 ある程度水面が竹などの木材で覆われた頃、物見の者が帰って来た。


 「飯田城から凡そ千兵がこちらに向かっております。一刻半後には来るでしょう」


 「そうか。やはりな。その方は信幸様にも知らせて参れ。飯田からの援軍は引き受けたと伝えてくれ」


 秀久は飯田軍を迎え撃つつもりであった。




 秀久からの使いが飯田城からの援軍を信幸に知らせた。秀久は「飯田からの援軍は引き受けた」と言っていると言う。


 「秀久殿。功を焦りあさるなよ」


 信幸は呟いた。それを聞いた秀久の使いが「おそれながら……」と口を開いた。


 「我が主は功など求めてはおりませぬ。信幸様に危険が及ばぬように動かれておるだけでございます」


 「儂に? 」


 「はい。私めは古くから秀久様に仕えております。主の考えます事は大凡の事は分かりまする」


 「ふむ。……やはり、良い武将(もののふ)じゃな、秀久殿は……。

 よしっ! 分かった! くれぐれも無理はされるなと伝えてくれ 」


 「は。必ずお伝えいたします。それでは某はこれで……」


 秀久の使者は帰っていった。


 信幸は嬉しかった。秀久の心意気に報いねばならぬと感じていた。


 (援軍がくれば秀久殿は城方と挟まれるのではないか?)


 そう考えた信幸は大手門に鉄砲を撃ち、攻める構えを見せたのである。秀久の負担を少しでも軽減できればと考えてのことだ。




 やがて小笠原秀正の援軍が姿を現すのである。



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