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牽制部隊

○一六〇四年春三月某日


 上田城の信幸の元に大阪城から使者が赴いた。使者は真田忍びの霧隠才蔵だった。


 「おお、才蔵。元気そうだな。父上や幸村は元気にしておるか?」


 信幸は親族思いである。昌幸、幸村が九度山へ流された時は徳川の重臣どもに冷ややかな目で見られながら物資や金銭を送るなど支援していた。


 「は。お二人や御家臣の方々、皆、すこぶる元気にございます 」


 「そうか。それは良い。で? こ度は? 」


 信幸は才蔵が来た訳を尋ねる。

 才蔵は懐から書状を取り出して信幸に手渡した。


 「秀頼様からの書状にございます」


 信幸は受け取るとその場で読下す。


 「才蔵。御苦労であったの。『心得た』と伝えてくれ。時はちょうどひと月後に 」


 「は。確かにお伝えいたします。では某はこれで…… 」


 才蔵は大阪へ帰っていった。




 信幸はすぐさま評定を開く。

 評定の席には捕虜であるはずの仙石秀久も座していた。


 「みな、御苦労。評定をはじめるが、その前に一つ。こ度、仙石秀久殿は真田家臣となった。秀久殿は槍隊の鍛錬などを見てもらっているのは皆も周知じゃろう 」


 一同は頷く。


 「新参者ですが、皆さまよろしゅうに 」


 秀久が頭を下げる。捕虜となってからの秀久の言動を見聞きしている家臣達は歓迎を意味する笑顔で頷いていた。




 「さて、これからが本題じゃ。昨日、大阪の秀頼様から報せが参った。伏見城を攻めるそうじゃ」


 改めて信幸が評定を進める。


 「そこで徳川の動きを抑えるために我が真田家は高遠城に出陣する事になった」


 集いし将達はざわめいた。

 宮ノ下藤右衛門が難しい顔で意見を述べる。


 「殿。それは大阪からの命でございますか?」


 「さようじゃ」


 「う~ん。ちと難しいのではございませぬか? 我らが兵は六千余り。守兵を置きますと無理しても四千ほどで攻める事になりますなぁ。留守が危のうございます」


 腕を組んで難しい顔をする藤右衛門だ。それを見て信幸はにやりと笑った。


 「そうじゃな。調べによると高遠城には保科正光が守っておる。兵は千五百ほど。確かに落とせば守らねばならぬ。上田や小諸が薄くなる。

 だが、今回の我らの出兵は徳川の目を引き付ける事よ。いわば牽制じゃ 」


 伏見を豊臣方が攻めれば、徳川家としても援軍をだそうとするだろう。大阪城からは目と鼻の先ほどの距離であり、伏見城は「対大阪城の重要な城」である。援軍を行きにくくさせる策として真田家は出兵する。高遠城が攻め落とされれば、前田家、上杉家はより関東へ兵を出しやすくなる。真田の力も強くなる。

 関東の江戸、駿府に拠点を置く徳川家康・秀忠にとっては膝元が不安定になってしまうのである。


 ここで秀久が口を開いた。


 「という事は我らが高遠城に寄せるのは見せかけということですな? 」


 「うむ。そう言う事じゃ 」


 皆の者も理解したようであった。


 「したが高遠は遠うございますぞ。松本から留守を狙われるのではございませぬか? 」


 再び藤右衛門が言う。


 「松本におる兵は少ない。恐れる事はない。そなたの心配ももっともだが、ここは兵を出す。豊臣大名としての責務と心得よ。ここからはどの様に兵を出すかを考えようではないか 」


 将達は信幸にそう言われては従うしかない。それぞれ思案する。



 信濃国には家康(徳川将軍家)が定めた藩は飯山、川中島、上田、小諸、松本、諏訪、高遠、飯田の八つある。その内上田と小諸は信幸、すなわち豊臣方が治めている。

 飯山、川中島の両藩は上杉家への目付、押さえ的な意味合いもある。

 諏訪、高遠の両藩は関東を本領とする徳川本家の外郭的な意味合いがある。家康は松本藩を治める石川康長の抑えというか目付とも考えていた。家康は康長を今一つ信用していなかったからだ。

 飯田は徳川天領としていたが、真田の抑えとして、昨年から小笠原秀政が五万石で治めている。


 信濃国のどの大名も治世に手を付けたばかりで地力はない。唯一、川中島の松平忠輝が十二万石で三千ほどの兵を擁しているくらいだ。



 「となれば、高遠に粛々と行軍し目を引き付けて行くのが良いのではありませぬか?

 そうであれば、私をお連れ下され。某は短慮、猪の武者で知られております 」


 秀久が従軍を願い出た。


 (儂が出れば目立つ。猪の武者の儂が出れば戦意が高いと見えるだろう。となれば関東から兵を寄こす可能性がある。上手く牽制となるだろう)


 秀久の意図は信幸には通じている。


 「うむ。ならばこ度は仙石秀久殿、宮ノ下藤右衛門、鈴木忠重、小川好安で出る。留守居は小諸に仙石秀範、上田に木村綱茂、戸石城は昌親じゃ。引き連れるは兵四千! 」




 こうして従軍する将が決まり信幸は出陣する。

 

 


 


 

この時分の信幸直臣は二十四名。その内、主だった将の所領と俸禄。


真田昌親……戸石城下【五千石】

宮ノ下藤右衛門……上田領久保林・上原・中原・下原四村【五千石】

鈴木忠重……上田領中野・保屋二村【千石】

木村土佐守綱茂……上田領小沢根・余里二村【千石】

仙石秀久……小諸領桜井・大石二村【千石】

仙石秀範……小諸領南方・糠地二村【千石】

小川好安……上田領横沢村【五百石】

奥村弥五兵衛……上田領角間村【三百石】

姉川甚八……上田領真田村【三百石】

三雲賢春……所領地なし【百五十石】

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