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仙石秀久

●上田城

 仙石秀久は捕虜として上田城に連れてこられた。「しばらくは牢暮らしか」と思っていたのだが、城内の一角に屋敷を宛がわれて割と自由であった。もちろん鈴木忠重と言う重臣が秀久の動向を監視してはいる。当主の信幸も毎日のように訪れては話をしていく。


 「秀久殿。この上田城だが秀久殿が手を加えるとしたらどこだ?」


 「ふんっ。敵に聞いてどうする!……だが、儂ならば水堀だな。ここの堀は広いが浅い。攻める時には一時の妨げにはなろうが、戦意の高揚している攻め手には思ったほど防御の意味は薄いわ」


 「ほう。なるほど、なるほど。さすがは築城に長けている秀久殿じゃ」


 そう言って満足気に信幸は帰っていくのであった。

 この様に次から次へと城の普請に対して開けっぴろげに尋ねる。敵将からも学ぼうとする信幸の姿勢は秀久にとって不思議としか映らなかった。


 ある時、秀久の監視のために付かず離れずの場にいる鈴木忠重に秀久は聞いた。


 「そなたの主は変わっているのう。敵将、それも自分が降した将に普請の事などを訪ねるとはな」


 それに対して忠重は幾分頬を緩めた。


 「殿は秀久殿が好きなのでござるよ。真田家は大家に囲まれてきましたからな。才ある者を見抜く事は当然のように培われてきたのでしょう」


 「ふーん。そう言う物かのう。されど何故に儂をこの様に自由にさせておる?儂の配下の者も自由に行き来できるぞ?逃げようと思えば逃げらるぞ」

 実際に秀久と共に捉えられ引き連れられてきた家臣達は以前と同じように秀久に仕えている。


 「さあ。何故でしょうな。某には分かりませぬ。だが秀久殿は逃げてござらん」


 (まあ、確かにな。今の儂には逃げようと言う気はないがな。それを読んでいるとでも?

 ともかく変わった御仁じゃな。はじめは普請の事でも聞かれると腹も立ったが、今では御仁が来ぬと寂しさを感じるわ)

 秀久は信幸に魅力を感じ、それを受け入れている自分に軽い驚きを覚えていた。



 それから数日後の事。


 「秀久殿。この間、雑兵を新たに抱えましてな。その者どもに槍を教えてもらえませぬか?」


 と信幸が頭を下げて頼んできた。


 「何っ? 降将の儂に兵の鍛錬まで!?

 信幸殿。儂をどう思うておられるのじゃ? 」

 秀久は聞かずにはいられなくなった。


 「ん? 秀久殿は良い武将じゃが? 」


 「そうではない。儂が聞きたいのは、信幸殿にとって儂は何じゃ? 家臣か?違うだろう?」

 (良い武将と信幸殿は言うが、儂の評判は良くない。儂が知っておる。息子の秀範さえも儂から離れた。良いとは言えぬわ)


 「そういえばそうじゃのう。深く考えた事もなかったが……。そうじゃな、戦乱の世を生きる武将(もののふ)同志ってことかの」


 そう言って信幸は無邪気な笑顔を秀久に向けるのだ。


 「ふふふ。そうか。そう言うものか。武将同志か……よしっ!兵を連れて来て下されっ!鍛えましょう」


 「お!そうか、そうか。ではお願いいたしまする」


 信幸は兵を連れて秀久に鍛錬を託したのであった。この時を境にして、拗ねた態度で接していた秀久は信幸に対して真摯に受け答えするようになる。秀久は真田家に居場所を見つけた様であった。


 秀久が信幸の正式な家臣となるのは三ヶ月以上も後になってからである。

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