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金刺源五郎

 金刺源五郎は坂城陣屋に入り、その配下も陣屋周辺に居を構える。急遽、こしらえられた陣屋であるが水堀で囲み、四隅に櫓を設けるなど小ぶりな城郭の様相を呈している。

 その陣屋に仙石秀久が訪れた。源五郎が招いたのだ。


「秀久殿、ようおいでくだされた」


「なかなか良い陣屋ではないですか。

 時にあれは?」


 秀久が敷地内の背の低い一本の樹を指さしている。その樹は人の背ほどの高さだが、周りにしめ縄が張られている。


「大社の御神木の枝株を持ってきたのです」


 金刺氏は元々代々諏訪下社大祝を務めてきた一族である。神主から武力化して武士化した。諏訪氏との勢力争いに敗れて、諏訪を追い出されたが信心は失っていないのだろう。


「ほう。きっと、この陣屋をお守りくださるでしょう。他にも何か神物を?」


「ええ。下社に伝わる香木の一片を」


「それでは、それを祭られては?」


 秀久は社、すなわち神社を建てて祭ればよかろうと言う。源五郎は「大きな社とはいきませぬが、小さな社を建てることにいたします」と頷いた。


「ところで、本日、お招きいただいたのは?」


「そうでした。実は普請にお詳しい秀久殿に御助言をいただければと思いまして」


 そう言われて秀久は改めて陣屋を見渡した。陣屋を囲む塀は決して高くはないが、最上部には鋭い竹の反しが付いている。多勢に攻められれば役には立つまいが、普段の防御としては有効だろう。隅櫓もそうだが、至ることろにそういった守るための工夫がされている。


「助言ですか……。よくお考えになられた造りだと思います」


 今の所はこれで良いのではないかと秀久は答える。しかし、源五郎は「是非に」と食い下がる。


「実はこの陣屋ができてから、信幸様のお決めになられた領境あたりに野武士の装いの集団が度々現れておるのです。境からこちらに入ってくることはないのですが、じっと検分されているようなのです」


 詳しく聞くと十名ほどの集団だという。源五郎は配下と合わせて二十八名だ。奇襲などにあえば危ういと感じているのだ。


「野武士の集団!? どのような者たちなのでしょうな。そして狙いは何か。

 確かにそれではご不安でしょう。この陣屋を更に城郭のごとく備えたいということですな。

 分かりました。では手っ取り早いのは堀を二重にし、堀を掘った土で土塁を設けなされ。

 それと陣屋内のこの屋敷ですが、漆喰を塗り火矢に強くした方がよいでしょう」


「おお。なるほど」


「贅沢を言えば塀を高くするなど色々な手を加えることもできます。まずは今、申した二点からやってみてくだされ。それと見回りの強化も必要です。その怪しげな者達が現れる方面は特に。こちらの備えがしっかりしていることを見せるのです。これはすぐにでもできましょう?」


「ええ。明日から早速に見回らせます」


 この者であれば、この坂城は上手く治めるだろう。たしか五百石の知行と聞いたが、働きによってはもっと大禄でもよかろう。


 秀久は笑顔で頷きながら源五郎のこれからが楽しみに感じるのだ。


「また、参りますよ。それまで、野武士の人数や特徴を調べておくことです。敵を知ることも重要ですからな」


 そう言い残して秀久は帰って行った。

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