始まりの事件と出会い 04
嗚呼、声が聞こえる。嘆きの声だ。力が足りないと叫び、それを欲し、求め、寄越せと震える怨唆の絶叫。私は任務を達成することは出来なかったようだ。当然か。あんなにも慢心していたのだから。驕りがこの惨状を生み出したのだ。
ごめんなさい、私が悪かった。
ごめんなさい、私の責任だから。
だからお願い。自分をそんなに責めないで。
私も、かなりの重傷みたいだ。私は“死にはしない”が、この傷ではしばらく動けそうにない。
ナイフはまだ握られている。でも、その感触も、その手が動く気配もない。どうしてだろう。確かに握っているハズなのに。
そこでようやく気付いた。
なぁんだ。腕、千切れてたんだ。
腕が千切れてたのなら、ナイフを握っている感触も、腕が動くこともないのは当然だ。
これも私の罰だ。全身に走る焼けるような痛みも、聞こえてくる阿鼻叫喚でさえも。そして、私に銃を突き付けてくるこの男の存在も。
「このクソアマが、よくもやってくれやがったな······!」
銃口がこちらを向く。あとは引き金を引くだけで私に弾丸が撃ち込まれるわけだ。
「死ぃぃねぇぇぇぇぇっ!」
だから。
私なんて、助けなければいいのに。
「させるか、この野郎!」
あの少年が男に組み付き、押し飛ばした。
「チッ、このガキが······!」
少年は血まみれで、立つだけでも精一杯。とても戦える状態には見えない。
「どう······して······?」
絞り出した声に、少年が答える。
「どうして、って······分からねぇよ、体が、勝手に動いたんだ」
分からない。分からないよ。どうして? 教えてよ、■■さん······。
「へっ、素手で銃を持ってる俺に勝てるとでも思ってるのか?」
「んなこと、やってみなけりゃ分からねぇだろ? おっさん!」
「ならお前から死ねぇぇ!」
引き金が引かれる。ダメだ。一般人が銃弾を防ぐことなんて出来ない。そんな私の気持ちも知らず、少年は言った。
「矢巽」
*
銃弾が放たれた。これをなんとかしなければ、俺は奴を倒すことなんか出来ない。だが、俺の流派の技ならこういうときの技がある。
だからさ、不思議パワー。こんな時ぐらいちゃんと仕事しろよッ!
「矢巽」
音速で迫る弾丸を、不思議パワーを集めた指先で側面から叩く。それだけで弾丸は横に反れていった。
矢巽は飛び道具を弾く技。元々は矢を弾く技だったが、時代と共に進化した技でもある。
しかし、まさか成功するとはな。いや、完全に成功したわけではない。何故なら、銃弾を弾いた指はあらぬ方向を向いているからだ。だが、不思議と痛くない。あれだ、アドレナリンが神経を麻痺させているのだろう。
だが、今ばかりは有り難い。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおお!」
動揺している男に接近する。男が反応する前に、一撃を入れる!
「これはバスジャックに巻き込まれた人達の分!」
鳩尾に拳がめり込む。
「これはあの女の子の分!」
掌打を顎に叩き込む。男の体が二メートルほどまで浮かぶ。
「そしてこれが!」
無意識に、とある技を使った。
それは、八卦剛拳の中で最も高い威力を誇るもの。
「孝治の仇だァァァァァァッ!」
──坤剛・地動拳──
そして俺は、技がちゃんと当たったのか確認する前に気を失った。
主人公、覚醒(?)
嘘です。
ぶっつけ本番で成功しただけでしたというオチ。