何者か、だって?
ピーンポーン、パーンポーン。
ピーンポーン、パーンポーン。
魔法式スピーカーが町中に響く。
『お知らせです、お知らせです。
本日、予定されていた魔法学校試験。緊急事態が発生したため中止されました。
繰り返します。
本日、予定されていた魔法学校試験。緊急事態が発生したため中止されました。』
少年は、「あらら、暇になってしまった。」と嘆いた。
「ん、んんー。どうしようかな。…ギルドとか行ってみるかー。」
実は、この少年、ギルドに登録していない。
まぁ一週間前にこの国に来たばかりなので、当然だ。
少年は先ほどのギルドと書かれた酒場に行き、ドアを開いた。
今時珍しい手動ドアだ。
だが、そこが良い。
そして、カウンターに腰をかける。
「お酒が欲しいデース、、、あるー?」
「もちろん。酒場ですから。」
髭を生やしたダンディーなお兄さんが、愛想のいい笑いで、一杯の酒を出した。
透き通ったお酒だ。
おつまみに、赤い豆がそえてある。
少年はちびりとお酒を飲んだ。
お兄さんはそれを見守る。
「おいしーい!」
「ありがとうございます。」
「本当、本当っ!この芳醇な香りと淡いほろ苦さ。上品な味だね。赤い豆も、甘くてこのお酒によく合うよ~。」
そして何より、と少年が続ける。
「……そして、麻痺毒みたいなスパイスが最高!!」
「!」
お兄さんが目を見開くのを見て、少年はにこにこ笑う。
それはもう、トラがウサギを見つけたときのように獰猛に。
いじめっ子が、いじめられっ子を見つけた時のように狡猾に。
「毒っていうのは、時には良い刺激だからね。この舌にピリッてくる感覚は悪くな~いぜ。まぁ、だけのその顔を見るに悪意はあったみたいだけど。
俺みたいな善良な市民に毒を盛るなんてひどいなぁ。」
ぺろり、と舌をなめた。
それはとても様になっている。
お兄さんは眉をしかめた。
「血の臭いをぷんぷんさせといて、何を言っているんです。」
「えー?くさい?」
「…私はこんな濃い血の臭い、初めて嗅ぎましたよ。」
ピッ!
と、少年の首下にアイスピックを向けた。
硬い氷を割る道具だ。
鋭利で武器になるほど鋭いそれは、少年の喉仏に少し食い入っている。
そこから一筋の血が流れた。
「この国に何をしにきたんです?
用が無いならさっさと帰ってください。国にとって害悪です。貴方が居るとろくな事が起こらない。」
「それは酷くなーい?ねぇ。」
ねぇ、と少年は笑う。
一瞬だけひるんだ酒場の人は、恐怖をまぎらわすためか語気を荒げた。
「この前、私の父……前のここの店主が何者かに薬を飲まされました。元々体が弱ってたのもあり、治療を受けても直らず死にました。」
「それはそれはご愁傷様ー。」
少年は人事のように言った。
「最後まで、狂ったまま死にました。」
「あらまー。」
「……父は優しくて、とても賢く温かい人で…何より、いつも人のことを考えている人だった。…私は…そんな父が大好きでした。」
「良かったじゃない。」
「だからこそッ!!あんな死に方じゃなくて……もっとふさわしい死に方があったはずなんです…。」
「運命じゃない?」
「ふざけるなッッ!!」
お兄さんは、あらん限りの声で叫んだ。
昼間で、客が居なかったのが幸いして、目立つようなことは無い。
「貴方が…貴方が―――――殺したんでしょう?父を。」
しぼりだしたような、かすれ声。
お兄さんの目に、確かな憎しみがこもっていた。
「証拠は?」
「ありませんよ。…勘です。
まぁ強いて言うならば、貴方にまとわりつく死の気配と怨念ですかね。」
こりゃ駄目だ、少年は思った。
勘と言われれば、どんな屁理屈も通用しない。
だって理屈立てされてないのだから。
もっとも、少年が殺したことは事実なので、勘を頼るのももあながち間違っていないのかもしれないが。
お兄さんは、刺したアイスピックを、ぐぐぐ…と少年の首へおしこんだ。
「ここで殺せば、誰にも見つかることは無い。」
1cm、2cm、、、、ぐぐぐぐぐぐぐぐ…。
血はあふれ出て、少年の服の大半をぬらしていた。
少年の口からも血が出て、お兄さんの手をぬらす。
だがそれも気にせず、力任せにアイスピックを押し込んだ。
「死ね。」
肉が切り裂かれる音がする。
血が吹き出る音も。
ついに、喉を貫通した。
「―――――満足?」
「……貴方、何者ですか。」
相手の喉に武器を刺しながら、震え、かすれた声で問う。
一方、少年は楽しそうに言った。
「俺は何者か、だって?そうだねぇ。俺は―――――」
「何やってるんだお前らッッ!?」
酒場に、一人の少年の声が響いた。




