千年後
それから千年の時日がたった。
藁や日干しれんが、布などで作られていた家々は最早どこにも無く、綿密な魔術式から作られた邸宅がそこらじゅうに出来た時代。
もちろん昔のような集落は村になり、都市になり、国になった。
国には信じられないような人数の、いろんな種族が集まる。
白や黒の肌を持つ人間や、獣と人を掛け合わせた獣人、森の精霊により作られたエルフやドワーフ。
みんなが活き活きと、自分の国で楽しそうに生活している。
そんな中に一人、紅いピアスをはめた少年が居た。
楽しそうに口笛を吹きながら、にぎやかな大国の大通りを歩いている。
「ふっふふ~。あ、ここだ。」
ふと少年は、大通り沿いの小さな酒場を前に立ち止まった。
随分古いようだが風情がある酒場だ。
看板には大きく‘ギルド’と書かれていた。
「まだあったとは。素晴らしい!」
パンッと手をたたく。
一言賞賛。
そして酒場に足を踏み入れ――――ようとして、左にサッとよけた。
その少年の横を、酒場のドアを巻き込んで大男が
吹っ飛んできた。
「うをッッッ!!」
ズザザザザザ…と、地面をすりながらようやく止まった。
頭を血だらけにし、痛さのあまりにうずくまっている。
ぷるぷると震えていた。
しかし、やがて顔を上げて叫び始める。
「てんめぇ!!ふざけんじゃねぇ!!」
大男のそこら中に響く威圧的な声。
なにより大男自身の全身甲冑の格好が、それを更にあげていた。
最早、少々滑稽なぐらいに、コッテコテの重装備である。
「うるさいですよ。」
だが、それをものともしない冷静な声が酒場の中から聞こえる。
「むしろふざけんな、はこっちですから。」
そう言って、のそりと酒場から出てきた男は、まだ少年といっても差し支えないほど若い男だった。
だが、その雰囲気は圧倒的である。
なにしろ、あまり大きな声を出していないというのに、周りからは注目を集めている。
ざわ…ざわ……と二人の周りに、通りがかった人が集まっていた。
だが、二人はそれを気にも留めていないよう喧嘩腰で話し続ける。
「勝手にあんな事決めて、許されると思ってるんですか?」
「許すも何も王様の命だろうが!!」
「それを承認したのは貴方でしょうが。」
「んなもん、拒否したらどうなると思ってるんだ!!」
「そんなんだから王の犬なんて呼ばれているんですよ。」
「あ゛ぁん!?」
一発触発。まさしくそんな気配だった。
だが、いつもなら野次馬のひとつやふたつ飛ばしそうな場面だが、周りの人たちは何も言わない。
それどころか崇拝している気配すらあった。
どうゆうこと?と、少年は首をかしげたが、誰もそれに答えてくれる人はいなかった。
「よく分かんないなー…。まぁいっか。」
少年は二人の横をとおり、酒場に入った。
もちろん二人はそれに気づかない。
気づかない。




