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ハイネンリの心臓  作者: 堀内 俊宏
呪われし魔女編
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002 呪われし魔女編 Ⅰ

『誰か助けて・・・どうして私だけがこのような目にあわなければならないの?私も---』


眠っていたアカツキ達を起こしたのは強烈な憎悪を含んだ感情だった。

それは魔力すら帯びていて、深く眠っていたはずの二人を現実に引き戻すには十分である。


「何だ!今のは!?ハイネンリ今の聞こえたか!?」

(うむ、我にもはっきり聞こえたぞ。これほどの憎悪、不の感情は珍しいな)

「いきなり当たりか!?やはりこの学校に黒異点を宿してる奴がいるってことか?」

(分からぬが可能性は高い。とにかく探すのじゃ、そう遠くは無い、我なら見れば一目で分かる)


飛び起きたアカツキは窓を開け、深い闇を抱えた魔力の感じた方へと視線を動かす。

すでに外は日が沈み、時刻は23時を過ぎていた。先ほどの深い不の感情を感じた直後だからであろうか、アカツキはいつもより夜の闇が濃いと感じていた。


(で、学校の見取り図はもう覚えたのか?)

「えっ・・・・!?あぁ、・・・ま、任せておけ!」


すっかり頭から抜け落ちていた事項を指摘され、間の抜けた返事をしてしまったアカツキのそれにすべてを悟ったハイネンリはあきれるように吐き捨てる。


(む、お主・・・まさか眠っておったな?)

「な・・何言ってんだ!、っていうか今はそんなことよりさっきの声の主を探すのが先決だろ!」


寄宿舎を出て、憎悪を感じた方角へ走りながらハイネンリの追求を免れようとアカツキが言い訳をしている最中にそれは再び来た。


『憎い・・・・世界が・・・全てが憎い・・・・』


この憎悪を巻き散らす主に先ほどより近づいたせいであろうか、深いだけではない、まるで錘を肩や背中に乗せらたように、ひどく歪で重いそれにアカツキはつぶされそうになり足が止まる。


「っく・・・これは!?」

(ええい!シャキッとせんか!!これくらいで怯むでない!)


決して臆したわけではない。この程度の修羅場などすでに何度も乗り越えている。ただ今の一瞬にその深い闇の先に悲しみにも似た、何かを見たのだ。


アカツキにはその声がまるで、かよわい少女が最後の力を振り絞って誰かに助けを求めているような儚いイメージを受ける。それに怯んだこと自体の原因は他にあるのだが・・・。


「一瞬だが、さっき見えたあれはまさか・・・」


しかし、そこ近づくほど警備がどんどん厳しくなってくる。警備をしている人間の数もアカツキ達のいた寄宿舎に比べれば10倍はいるだろうか。


建物に使われている装飾品も比べ物にならないほど豪華なようなもだ。どうやらこの先にいる人物は相当なVIPのようである。


気配を消し、幾重もあった警備を突破する。女性教師に体術をマスタークラスと評価を受けたアカツキだが、その身のこなしは、現代で言う忍者さながらだろう。


そして問題の場所へと到達した、アカツキは意を帰してそこに飛び込んだ。


本来、人間が入ることを想定していない高い壁に設置されている窓から進入した先でアカツキの目に映ったのは、肩までかかる長い金髪、篝火のような強い火を灯したオレンジ色の瞳、芸術とも取れる美しい曲線を描くその胸、何より人間離れしているとしか思えないほど整った顔立ちはまるで女神といっても大げさではないほどの美しい女性だった。


(・・・ん、外から見たとき窓から湯気が出てたからまさかと思ったが、ここ大浴場じゃねーか!!・・・っつ!?)

(うるさいぞ、お主、先ほど怯むなと言ったばかりであろう)

(女風呂とか思春期男子なら怯むんだよ普通は!勘弁してくれ!)

(何が勘弁してくれじゃ、凝視しておったではないか。この助べえめ)


しかし、見れば見るほど先ほどあれだけの憎悪を放った女性に見えない。


そのあまりの美しさに見とれて動くことの出来ないアカツキを尻目に何かに気が付いたかのように金髪の女性は顔を上げアカツキ達の方へと振り返った。


「覗きとはいい度胸ね。それだけ騒いで見つからないとでも思ったの?出てきなさい。そこの二人組み!」


アカツキはパニック寸前である。魔法学校に転入生としてやって来て1日も経たないうちにのぞき魔のレッテルを貼られ、後ろ指を差されながらの学園生活などアカツキには堪えられそうにない。


しかし、ハイネンリがある疑問に気が付く。


(まてアカツキ、二人組みと言っておるぞ?もしかして我らのことではないのではないか?)


大浴場に侵入してからアカツキは声を出していないし、何よりハイネンリの声はアカツキにしか聞こえないはずである。まだ出るのは早いと様子を伺おうとしたアカツキ達であったが、その希望は直ぐに打ち砕かれることになる。


「あなた方のことに決まっているでしょう。というか馬鹿にしているのですか?さっきから大きな声でペラペラと」


(まかさ,この嬢ちゃんには我の声が聞こえているというのか?)


驚きを隠せないアカツキ達とは対照的に金髪の女性は一糸まとわぬ姿でありながら毅然とこちらを見据えていた。

またハイネンリの言葉に不快を感じたのだろう、金髪の女性は覇気を強め、憮然とした態度で答えた。


「私に向かって嬢ちゃんとは無礼なやつだ!出てきなさい。この私をセレーネ・セファネベルと知っての狼藉か!?」


降参と言わんばかりに両手を挙げゆっくりとセレーネの前に姿を現すアカツキ。


(っく・・!?素顔を見られた上に裸までなんて!・・・誰にも見せたことのないのに!!)


セレーネの顔が上気しているのは単に湯に使っていたからだけではないだろう。異性に体を見られた気恥ずかしさや怒り、様々な感情が入り乱れているのがアカツキには伝わってくる。

そう、彼女は今、口を開いてすらいなかったにもかかわらず、はっきりとアカツキには聞こえたのだ。


(これは驚いたの、念話じゃぞ)

(念話?ってあの伝達魔法のことか?)


この世界では魔法使いのみが使える、念話という独自の通信手段がある。念話器という魔具を使用することで互いの思考回路を開くことによって通信する手段のことであるが、魔法使いしか使えないのはそれを使用するのに魔力が必要であるからだ。

しかもそれでいて互いの思考パスを知らねばならないのだ。

思考パスとは現代における電話番号と思ってもらってよい。

一人一人が持っている思考パスは指紋のように同じものはないので重複する心配はないのだが、念話する相手が遠ければ遠いほど、消費する魔力は膨大になるため、緊急時のような特別な事態でなければ使われないのが殆んどである。


(ばか者、あれとは比べ物にならぬわ。第一お主は今、念話器を所持しておらんし、この嬢ちゃんの思考パスなど知らんのじゃぞ。何より我の声が聞こえる次点で異質だ)

(じゃあ、なんでこんなにはっきり念話できてるんだ?)

(相性かもしれんな)


ハイネンリは説明する。数千年に一組というの割合で極まれに魂の相性が良いものがこの世に生を受ける時がある。

しかし、それはあくまで同じ時代にというだけであってこの広い世界でさらに出会うことなど更なる低い確立であり、奇跡にも等しいのである。しかし、もしそうした相性の良い者どうしが奇跡的に出会った場合、魔力も魔具も必要とせずに念話することなど造作もないだろう。


セレーネもことの重大さに気が付いたのだろう。

何より彼女が驚いたのは念話というよりアカツキの中のいる者にである。


「あなた一体何者なの?体の中に一体何を飼ってるの?」

(飼っているとは失礼じゃな!共存していると言ってほしいの!)

「共存ですって?」


馬鹿なありえない、といわんばかりに驚いてみせるセレーネにまるで胸を張るように自慢げにハイネンリは答えた。


(我が名はハイネンリ!輪廻の狭間に漂う無限の魔力をしようする人と神によって作られた最強の機械神なり!)

「正確には成れの果てだけどな、今は魂だけだし、俺という媒介がいなければ力も出せないし」


水を差すなと不機嫌そうに返すハイネンリ達は今おかれている現状など当に忘れたと言う様にセレーネの前で口論を始めだす。そのやり取りはさながら仲の良い姉弟を思わせる。


「そんな・・ありえない・・・だって私は!」


ドンッ!という大きな衝撃とともにセレーネの体を膨大な魔力の塊が覆う。先ほどアカツキ達が感じた深い闇を纏うどす黒い魔力だ。


(むっ!これは黒異点などではないぞ!アカツキ!)

「そうみたいだな、・・・こいつ、呪われてるのか?」


アカツキは呪いの正体を探ろうとじっとセレーネを見据える。彼女自体はもやはそれどころではないようで頭を抱えながら何かと必死に戦っている。


「しまった・・・くっそ・・・出て・・くるな!」


まるで流水のように無限にでもあふれ出てくる魔力を必死に止めようと自分の体を抱くようにその場に蹲るセレーネ。


「もう・・・だめ・・・っ!?」


セレーネの周りを充満し圧縮され続けた魔力が爆発しようとした瞬間、アカツキの大きな声が彼女を覆った。


神格顕現(ドライブ)!!」


意識を失いそうになりながら、セレーネが最後に目にしたものは、生命色を表すようなエジプシャンブルーの髪に、虹のように幾重にも重なる光り輝く美しい色の瞳を持つ、先ほどまでとは比べ物にならないほどの威圧を放っている覗き(オトコ)の姿だった。







「なぁ、知ってるか?昨日なんだかSランクの居住区のほうで侵入者が現れたらしいぜ?」


午前の授業が終わり、お昼の時間帯、食堂で昼食をとっていたアカツキにそう答えたのは同じEランクの寄宿舎に住むユウヤ・ナゼであった。


今朝、高等部Eランク寄宿舎の管理人を通して同ランクの生徒たちに一通りの挨拶を済ませたアカツキに気概よく話しかけてくるあたり、彼は面倒見が良いのだろう。同じ東洋人ということもあったのかもしれない。色々とこの学校のことについて気前よく教えてくれていた。


「へー、なんだか物騒だな・・・」

「俺が手に入れた情報だと、なんとそいつはあのセレーネ様の入浴を覗いたらしいのだ!!」

「ぶっ!!!」


思わず噴出したアカツキにユウヤはハンカチを差し出しながら心配してくる。


「お前大丈夫か?」

「いや、悪い。大丈夫だ・・・」


ハンカチを手にしながら昨晩の事を思い出す。

今、ユウヤの言ってた侵入者とは疑いようもなく完全に自分を指しているのだろうことを確信したアカツキは動揺を隠せずにいる。


(昨日は少し派手にやりすぎたなアカツキ)


昨晩アカツキは、暴走したセレーネの力を抑えるために、少しだけアカツキの所有している特別な力を使ったのだが、結果的に大浴場を破壊するという暴挙に至ってしまったのである。

だがしかし、もう後の祭りである。ばれたら退学ではすまないだろう。

装飾品からなにやらすべて豪華だったあの大浴場が一体幾らで復興されるのかアカツキには想像すら出来ない金額なのである。

弁償する金など当然持ち合わせてなどいない。

ガクガクと震えるアカツキをよそに食堂の入り口当たりから「キャー」という黄色い歓声が聞こえてきた。


「ん、なんだ?」


アカツキが視線を向けたその先にいたのは白を基調とした魔道装束を身に纏い、その顔は仮面で覆われ、ネックレス、腕輪、指輪など体中にたくさんの魔法石を身につけ、胸の膨らみから、それが金髪の女性だと判別できるその人物はゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。

そして、あろうことかその歩みをアカツキの前で止めたのだ。

隣に座っていたユウヤは周りと同じように非常に興奮しているようであり、アカツキに知り合いなのかと何度も問いている。


「転入生アカツキ」


凛とした美しい声でアカツキの名を呼び、その仮面の隙間から覗かせるオレンジ色の瞳にはまるで睨み付けるような威嚇にも似た覇気を纏っていた。

残念ながら仮面を被ってるこの人物に粗相をした心当たりなどまったくないアカツキは探るように尋ねる。


「自分に何か御用でしょうか?あとすいません、どこかであったことありますか?」

(私の体をあれだけ舐め回すように凝視したくせに、あったことありますか?とは本当に最低な男ですねあなたは!)


頭の中にダイレクトに入ってきたその声を聞いてアカツキは凍りついた。

まさかこの女性は・・・・


「おいアカツキ!答えろよ!お前セレーネ様と知り合いだったのかよ!」


右手で顔を覆いながら今すぐにでも逃げ出したい気持ちを押させ、アカツキは自分の人生が終わりを迎えたことを確信した。


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