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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

怠惰と歪みの被害者兼   

作者: 神崎錐


どかっ



痛い。



ばきっ



痛い。



ごっ



痛い。



がんっ



痛い。痛い。痛い。



ぼきっ



痛い。



どしゃっ



助けて。



どすっ



助けて。



ざんっ



助けて。



どさっ



誰か。



ぼとっ



助けて。



がきっ



助け



ぐしゃっ




……びちゃっ










 * * * * * * * * *









私は死んだ。

殺されたともいう。

私を殺した相手にその気があったのかは知らないけれど。

私が死んだ、という事実に変化は無かった。

手足の感覚が無くなるほどに寒い冬の日のことだった。



ここでかなり突然だが、異端審問というものをご存じだろうか。

この世界では魔女狩りの際等に行われた事で有名で、処刑者は四万人程だと言われている。

私は前世でこれに引っかかり、拷問をうけて死んだ。

ちなみに、私にかけられたのは物盗りの容疑であり、魔女は全く関係ない。

そして当然だが私は何も盗んでいない。

よって、おそらく死因は失血。またはショック。それ以外なら頭蓋の大破以外思いつかない。



それなら何で死んだ人間がこうしてグダクダと考えているのかというと、まぁ、それなりに理由はあるらしい。

なんでも何か空間の(ひず)みとやらが原因で、その関係で私は別の世界、つまり今私が居るこの世界で生を受けたらしい。

はっきりしていないのは空間の管理をしているという正直かなり胡散臭いやたらと光っていた物体の無茶苦茶且つ胡散臭い台詞のせいだ。何か寝ぼけてたっぽいし。


そしてその無茶苦茶且つ胡散臭い台詞を自分なりに解釈した結果があれだ。

ここまででとりあえず一言。

ちゃんと仕事しろよ管理人。



そういうことで、私は別の世界に生を受け、今世を生きている……わけだが。

この世界で言う、私の立場というものが、実はあまりよくない。



さて。

ここで少し現実を見てみよう。


先ずは。


自分の体の状態。

目に付くのが様々な種類の傷跡。

擦り傷、切り傷、打撲、火傷、青痣、絞め痕。目に見えるのはそのくらいだ。


次に。


自らから漂う異臭。

そして汚れ。長い間風呂に入っていないせいか、私は自分から出る垢などで汚れていた。


次に。


私自身の健康状態。

これが実は結構深刻で、風邪一つひくことが許されない。

ひいたら一巻の終わりだ。もう健康な状態には立ち直れないだろう


次に。


私が身に着けている衣服の状態。

これもまた、長い間同じ物を着続けていたせいか、私の体と共に酷い異臭を放っている。

服もよれよれで、もう何年も着倒しているかのようだ。



そして。


私の今の状況。

数刻前からただただ暴言を浴びせられ、精神が疲弊してきている。

私に暴言を発する眼前の人は今日も機嫌が悪いようで、今拳が振ってきてもなんら不思議で無いだろう。




以上の情報を踏まえた上で申告しよう。


私は虐待をうけている。



ちなみに、まさに虐待をうけている真っ最中の今現在を平然としてられているのは(ひとえ)に前世で拷問された記憶があるからだ。

どれだけきつい虐待でも、拷問よりはマシ。その精神で今までもっている。



それにしても、なんでこうなってしまったんだろう。

最近は特に、そう考えるようになった。


最初はこうじゃなかった。

この世界で言う、普通に幸せな家庭のはずだった(隣人曰わく)。

いつからだろうか。

こんなふうに虐待をされはじめたのは。



「おいてめぇ!聞いてんのか!!」



あ、また男が逆ギレした。

嫌だなぁ……。

いくら状況に慣れたとはいえ、辛いものは辛いし、殴られれば痛い。

暴言はいい加減に耐性がついてきたけど。

そうじゃなきゃ、こんな環境でやっていけない。



ちなみに、男は男であり、それ以上の何者でもない。


念のために追記しておくが、今私の目の前にいる男は母親が連れ込んでついでに貢いでいる相手だ。

母親が破産する日はそう遠い未来では無いかもしれない。



……あぁ。

思い出した。

私が虐待されはじめた時期。

四人家族から二人だけになった、暑さが少し落ち着いてきたあの時期。

3歳になったあの年。

そうだ。あの頃だった。



たかだか二年前なのに、何故か無性にあの頃が懐かしい。

無邪気な子供に戻れたあの頃が。

同い年の隣人と見知らぬ遊びに熱中していられたあの頃が。



でも。

それも最早過去の話。

今私は、何よりも現実を見ないといけない。



「ふざけてんなよてめぇ!」



そういうなり、男は拳を振り上げる。


あ、殴られる。

そう直感し、反射的に頭を手で覆って目を閉じた。




がつんっ




………あれ?

鈍い音がした。

けど、私は殴られてない。

なら、さっきの音は一体?

おそるおそる目を開ける。






そこには我が家で一番大きな棚に潰された痙攣を繰り返す赤い塊があった。




それが何かを確認した瞬間、私は生臭くなってきた部屋から飛び出した。


このままだと最近気違いなりつつある母親に殺される。



養ってくれる人が居ないのは色々と厳しいものがあるけど、

殺されたくはない。



また苦しんで死ぬなんて御免だ。








そういうことで、これまで以上に保身第一で行動しよう。



迫り来るであろう生命の危機から逃げながら、そう心に決めた。









 * * * * * * * *












「うーん……」


「どうしましたか。遂に頭がイカレましたか」


「んなわけあるか」


「ではなんですか」


「あー…それがな。こないだ転生させた奴がな。ちょおっとばかし予想外な人生をおくってるみたいでなぁ…」


「あぁ。貴方の不手際で来世での運命を変えられた可哀想な方ですか」


「人聞きの悪いこと言うな」


「事実でしょう」


「うるせぇ。それでそいつのことなんだがな」


「一般家庭に生まれ、特に波のない人生をおくり、87歳(独身)でこの世を去る」


「知ってんなら惚けんなよ」


「確かに予定が大幅にズレていますね。どうするんですかこのズレ。こんなんでこの空間の歪みは直るんですか」


「おい、無視すんな。…そこらへんは問題無い。別にその程度なら放っといても直に戻る」


「それまではどうするんですか」


「色々とそいつの付近で変な事が起こるだろうが俺は知らん」


「鬼ですね」


「煩い。俺の管轄の世界だ。俺の勝手にやって何が悪い」


「なら人一人の人生を間違えて終わらせたときも放っておけばよかったでしょう」


「あー…あの時はその…少し焦ってだな」


「言い訳は見苦しいですよ。大方寝ぼけていたんでしょう」


「……………」


「しかしそれなら貴方は何を悩んでいるんですか」


「その後のそいつとか?」


「放っておけばよろしいでしょう。そのままでもなんとかなるんですし」


「んー…それもそうか。もう数分後に死んでもおかしくないような奴だし」


「左様で」


「あぁ。にしてもあいつおもしれーなぁ。人見殺しにしてあんな行動起こすか?普通よ。お、公園に逃げ込んだぞ。遊具の陰に隠れた。そこからどう動く?」


「待ちなさい」


「なんだ?」


「人間の観察以前に、貴方には仕事がまだ大量に残っているんですよ?どうするんですかこの立派な山脈は」


「………後でや「駄目です」


「にべも無く切り捨てやがったこい「御託はいいのでさっさと仕事をしてください。後がつかえてるんですから」


「台詞被せんな」


「何が言いたいか解っているからいいでしょう」


「お前の想像と違うかもしんねーだろーがよ」


「ほう。そう言うならもう一度お聞かせ願えますか?」


「……後でや「駄目です」


「同じ結果じゃねーか!」


「決まっているでしょう」


「すげー気になんだよ!いいだろ後でも!」


「駄目なものは駄目です。この書類なんてこのまま明日に持ち込めば間違いなく上司の雷が落ちますよ」


「…チッ。……ちょっと待て」


「なんですか」


「お前は何してんだ」


「見ています」


「待てコラ。お前こそ仕事どうしたんだ」


「既に終わらせました」


「おい。お前には俺のサポートっつー立派な仕事が残ってんだろ」


「大丈夫です」


「なにがだよ」


「ちゃんと録画しておきますから」


「そういう話じゃねーよ。つかさりげにサボり宣言すんな」


「それでは精々頑張ってください」


「おい待てコラ!ずりーぞんな面白そうな展開をお前だけ見るなんて!!」




『…………神は死んだ』




「おや、何か言いましたね」


「流すな。にしても……神、ねぇ。こいつそんなもん信じてんのか」


「この人間は前世では無信仰者のはずでしたが……はて」


「無信仰者?もしかしてこいつ都合がいい時だけ神だの何だの言っとく輩の一人か?」


「さぁ。どうでしょうね」


「おい。ま、いいか。さーて……精々、面白可笑しく進んでくれよ?最近娯楽も少ねーんだしよ」


「仕事を終わらせてからですがね。はいどうぞ」


「おい、ちょ!なんだその山!」


「今日中に済ませなければならない書類です」


「確実に1メートル以上はある山を今日中に済ませられるとでも思ってんのかテメェ!」


「1メートル48センチ32ミリです。そして、終わる終わらないの問題ではありません。終わらせなければならないのです」


「出来るかボケ!」


「放置するのですか?」


「当然だろ!今日中なんて無茶苦茶できっか!」


「では仕方ありませんね」


「おう、やっとわかっ………(いや待て。こいつ、こんなものわかりいいやつじゃねーよな)」


「今回ばかりは流石に私も自らの持ちうる全ての力を持って貴方をサポートいたしましょう」


「はぁ!?マジかよ!」


「えぇ、勿論」


「チッ……冗談じゃねーよ!みすみす捕まってたまるか!」


「待ちなさい」





その数分後、椅子に文字通り縛り付けられて半泣きで書類をこなす管理人の姿があった。









* * * * * * * * *










何かさっきから幻聴がする。


そのことに気がついたのは、私が家を飛び出して実に数秒もしないうちのことだった。


最初はそれを聞いて私も(精神的に)末期かなと思っていたけど、聞いているうちにそれにしてはどこかがおかしいと感じはじめた。


それに、私は会話をしている二つの声の片方に聞き覚えがあった。

何処で聞いたのかを聞きわけよう必死に二人の会話に耳を傾けていると、不意に気付いた。


…あれ。これ、管理人の声だ。


そのことに気付いた瞬間、これは幻聴じゃないと確信した。根拠は無い。


その次に、今度はなんで私に管理人と助手(仮)の声が聞こえるのかという疑問が浮上したが、その考えに被せるように管理人と助手(仮)の会話が聞こえてきた。


『あぁ。貴方の不手際で来世での運命を変えられた可哀想な方ですか』


『人聞きの悪いこと言うな』


『事実でしょう』


『うるせぇ。それでそいつのことなんだがな』


『一般家庭に生まれ、特に波のない人生をおくり、87歳(独身)でこの世を去る』


『知ってんなら惚けんなよ』


『確かに予定が大幅にズレていますね。どうするんですかこのズレ。こんなんでこの空間の歪みは直るんですか』


『おい、無視すんな。…そこらへんは問題無い。別にその程度なら放っといても直に戻る』


『それまではどうするんですか』


『その世界で色々と変な事が起こるだろうが俺は知らん』


『鬼ですね』


『煩い。俺の……』


……歪みって、確か私をこの世界におくる前にもそんなこと言ってたような。


それなら今私に管理人と助手(仮)の声が聞こえるのもその歪みとやらの影響で……


思いがけず気が遠くなってきた。


そんな事実知りたくもなかった。

こんなどうしようも無い怒りを抱くくらいなら、無知のままでいたかった。


なんとも言えずとりあえず何かを全力で殴り飛ばしたい衝動を抑えながら母親を撒くためになおも走り続ける。


そうしているうちにも当然の如く管理人と助手(仮)の会話は嫌でも聞こえてきた。その言葉に意識をできるだけ向けず走ることに集中しても結果は同じだった。何の罰ゲームだよこれ。


それでも諦めずに延々と走り続けていると直に体に限界の前兆が感じられたので、しかたなくたまたま発見した公園の遊具の中に体を丸くして隠れた。これで一応はわかりにくくなったと思う。

でも異臭で気が付かれる可能性もあるな……あ、泣けてきた。


…てか仕事しろよ管理人。山脈作り出すってどんだけため込んでるんだ。

助手(仮)も同罪だ。山脈作り出すまでほっとくなよ。サポートしろ。

つかなんで人間観察なんて暇なことやってんだよ。お前等暇じゃねーだろ。

山脈あるんだろ?なんでそっち片付けないの馬鹿だろこの人達。

てかあの時マジで寝ぼけてたのか。私の記憶がある原因それじゃ無いだろうな。

あぁもういっそのこと二人纏めて上司に矯正されてこいよ頭割れたら何か変わるかもよ。


口には出さず頭の中だけで思いつく限りの不満と現実に起こりそうな有り得そうな呪いを延々と垂れ流す。

これで私の怒りは少し落ち着いた。

いや、出来ることなら殴り飛ばしたいけど、現時点ではどうしようもないし。


とりあえず、反抗的な意味も込めて何か言ってみようか。

口に出したらもう少し気が晴れるかもしれないし。よし、そうと決めたら早速考えてみよう。

現状で口に出しても疑問じゃない台詞……現実に絶望しているような感じで……なんだろ。


うーん……もう前世の時の父親が小遣い賭博で全額スって絶望してた時の台詞でいいか。

話の主旨が変わった感じが否めないけど、なんかもう面倒になってきたし。




「神は死んだ……」




結果。

管理人と助手(仮)は仕事に駆り出されて行った。

いや、別に言っても言わなくても同じ結果だったと思うけど。


二度と見に来るな。


その願望に反し、公園で一夜を明かして気付いた頃にはバッチリ観察されていた。


畜生。

 



○人物設定




●主人公


管理人の不手際で殺されてしまった可哀想な人。現在、肉体年齢五歳。

転生して三年してからは母親やその恋人の暴力に耐える日々をおくっていた。

現在は母親から逃走し、公園で浮浪児として生活している。

里親絶賛募集中。


本人からの一言「もう少しマシな環境で生まれたかったな(二重で)」


追記 主人公が容疑をかけられた物盗りの真犯人は主人公の父親。



●管理人


いくつかの世界を管理する、所謂神様的存在。

主人公の前居た世界と今居る世界と合わせて五つの世界を管理している。

快楽主義者で面白そうなことには目が無い。

今まで色んな娯楽に手を出してきたが、知ってる娯楽は全てやり込んでしまって詰まらなくなって仕事をサボって寝てた所で主人公が殺された。

そっから寝ぼけて対応を誤り、現状に至る。

仕事の腕は確かで、意外とやり手。

しかしその不真面目さが祟って、どれだけ功績を挙げても精進には至らない。

主人公が見たピカピカした物体は一応管理人。その場に応じて色んな姿になれるらしい。


本人からの一言「…仕事が……仕事が……あぁあぁぁあぁ終わらねぇぇ!!」


追記 管理人は上記の言葉を発した数時間後に1メートル48センチ32ミリの山を一枚残らず片付けた。



●助手(仮)


管理人の秘書。同時に管理人のお目付け役でもあり部下でもありオカンでもあり、時にブレーキになりアクセルにもなる。でも大体はブレーキ。

管理人のお世話などが助手(仮)の仕事。

性格は上司に似て快楽主義者。自分がやりたいようにする。

でも仕事との分別はついているので管理人よりはマシ。

仕事の腕も確かだが、上司に巻き込まれて一緒に評価を下げられるのでどれだけ功績を挙げても精進には至らない。しかし本人はその環境を楽しんでいるらしく、今のところ不満は無いらしい。


本人からの一言「あのサボり癖が無ければいい上司なんですけどね。おや、どちらに行こうとするのです?」


追記 上記の台詞を発したときの笑顔は、まさに絶対零度に相応しい代物だった。 by管理人










蛇足


作品名


怠惰と歪みの被害者兼見せ物



登場人物


主人公


母親の恋人(という名のヒモ)


管理人


助手(仮)

 

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