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惡祇-アクガミ-  作者: ツンデレ気候
春ノ切レ味
4/7

春ノ切レ味 乙


 一




 夕方。


 月詠書店へ道案内をしそのまま家に向かっていると、いつの間にか日が暮れようとしていた。


 まだ暖かいのか、それとも寒いのかどっちか分からない気温である。


 まだ制服を着たままなので、ブレザーを脱ぐことぐらいしか体温調節の仕様がない。


 ああ。寒い。脱いだら寒い。もう面倒臭いから全裸で走り回りたい所だが、ここはぐっと我慢。ここは商店街だ。こんな場で全裸にでもなってみろ。すごいぞ。カラスに貪り尽くされるわ!


 そういえば、「カーラースー 何故鳴くのー カラスの勝手でしょう~」っていう歌詞あるじゃん?


 ツッコミどころないよね。


 完全無欠の言い訳だよね。明日から使うことにしよう。



 『おい、なんでオマエパンツ一丁で逆立ちしてんだよ』


 『僕の勝手でしょう~』



 これは・・・惨い。逆にツッコんでくれなくなるわ。



 

 変な事を考えていたが、別にパンツ一丁で逆立ちしながら商店街で暴れ回る目的があってここに居るワケじゃない。


 毎日。年中無休で。夕方必ずここにくる『ヤツ』がいるのだ。



 「毎日かかさず来るね。君は」


 「僕はオッサンにその服装をどうにかするよう、毎日説得に来ているんだ」


 オッサン。名前は知らない。だからそう言っている。オッサンからも名乗り出る気配はない。


 手品師がかぶるような黒長帽子と、花柄の海水パンツを身に付けて、木のベンチに座っている。


 なにか色々足りていない気がしているのはご愛嬌。


 って愛嬌でもなんでもないわ!


 「せめてTシャツ一枚くらい着ない?」


 「私がは銭がないのだ」


 ツッコミにくいなオイ。


 「最近新しい手品をこしらえたんだが、見てくれるかね?」


 「ん・・・ああ」



 そういうとオッサンは立ち上がり、黒長帽子を脱帽する。


 すると、帽子の中から一匹の白い鳩が飛び立った。


 バサバサと羽ばたいて何処かへ行く鳩。


 「どうだね?」


 「何が?」


 「今の手品だよ。帽子から鳩がでるという斬新な業だとは思わないか?」


 「オッサン。僕には真っ赤に擦れたアンタの頭の天辺が見えるんだが」



 絶対中に押し込んでたから、つつかれまくられたんだろ。と、あえてツッコまない僕。



 「そりゃあ、帽子の中に押し込んでいたからな」



 あっさり自白しやがった。このオッサンは手品の意味を知っているのだろうか。


 2chの掲示板とかに行ったら、『手品の意味知ってる人いませんか』って質問して『ぐぐれks』って言われてるところだな。


 「もう手品で稼ごうとか思わない方がいいんじゃないの?」


 「そうだな。最近鳩を買い占めすぎたせいか、黒装束の男達に付きまとわれる日々が続いているしな」


 「それって・・・」


 「そうだ駿河君。君に話しておきたい事があるのだが」


 「てやんでい?」


 間違えた。


 「なんだよ」


 「最近、ジョーシンに行ってテレビを見るのにハマっているんだが」


 「なんだ?どんな機種が良いかとかそんなことか?」


 「いやいや。テレビ本体を見ているのではなく、無料で放映されている番組を見ているのだ」


 てかそれ無料放送とかじゃないよな。値札貼ってるテレビの画質とか色合いとかを知るために流してる番組だよな。確かにニュースとかバラエティーとかを放送している事もあるが・・・。


 「オッサン」


 「ん?なにかね」


 「オッサンてホームレスだよな?」


 「ほーむれす?ケチャップのかかったアレかね」


 「それオムライスな」


 全く。僕のツッコミがないと、何を言っているか分からないじゃないか。



 「で、本題に戻るのだが」


 「うん」


 「近頃、『謎の感染症で若者が頻繁に倒れている』というジュースをよく聞くのだが、駿河君のご自宅の周りでは、そういうことは起こっていないかね?」


 「ああ。ニュースで何度か見たことがあるけれど・・・そんなに気にはしていなかったな。それと『ジュース』じゃなくて『ニュース』な」


 「この件については・・・」


 オッサンはどこから取り出したのか、古臭そうなキセルを口にくわえる。


 「前にも見たことがあるんだよ」


 フゥ~・・・と、眉間にシワを寄せながら一服する。


 「前って、こんな感じの事件をニュースで見たことがあるとか?」


 「いや。私がココにくる前は、テレビなんていう便利な品物はなかったからな」


 「ああ、そうか」


 オッサンは、『江戸時代から平成まで眠り続けていた』のだ。


 嘘くさい話だが、いつもふざけているオッサンが真面目な顔で言うのだがら、そこは信じる(信じるっていうのも何かおかしい話なのだが)のが妥当だろう。


 オッサンとの出会いは・・・語りたくないな。


 思い出したくない、のではない。


 嫌、ではない。


 気分が悪くなる、そんなのじゃない。


 ただ、これは話してしまうと、何かが消えてしまいそうな。そんな曖昧な表現しかできないのだ。



 だけど、僕は知っている。オッサンとの出会いを堺に、『知ってしまった事』がある。



 惡祇。



 「そうだな。その頃は『コロリ』が流行っていた。見えない相手に、誰もが怯えておったな」


 コロリ。


 今で言う『コレラ』である。病原体の一種であり、感染すると強烈な下痢や嘔吐に苦しめられるらしい。いわゆる、『米のとぎ汁様便』である。



 「私はその頃、ある惡祇と交渉するため、私は日本を横断した」


 「惡祇って・・・。もしかして、『コレラ』は惡祇が起こしたのか?」


 「いや。アレは本当にタダの感染病だ。むしろその逆。その感染病を鎮めてくれないかという交渉を、惡祇に迫ったのさ」


 え~なんだったか、と首を捻るオッサン。


 「その惡祇の名は・・・和豆良比能宇斯能神わずらいのうしのかみ、だったか。日本書紀では『煩神わずらいのかみ』と記されているが」


 「わずらい・・・というと、病気を『患う』のわずらいか?」


 「ふむ。現代でもそういう意味なのか。おそらくその意味合いで正解だ」


 「つまり、病気を担当している惡祇ってことか?」


 「ま、平たく言ってしまえばそんなところだろう」



 平たく言えば。その言葉が少し引っかかる。



 「駿河君。私はこの事件が『煩神』の仕業だと『勘』で思っている。あまりにも突発的過ぎるからのお。前触れもなく、原因も分からない。ましてや、今の科学とやらで原因不明なのだからな」


 「勘って・・・。そんな・・・」


 「力を借りる、つもりはない」


 オッサンは深く帽子をかぶり直す。


 「私は、『交渉人』だからな」


 「オッサン」


 一番言いたかったことを僕は言った。


 「オッサンって、嘘つくの苦手なのか?」


 「多少な」


 オッサンは、ニヤリと口元を緩ませる。


 「手伝ってくれるのか?」


 「僕は暇人なんだよ」


 あの時、あんなことさえなければ。僕はこんなオッサンとこんな密談をしたりしない。



 「ま、時はまだ早い。様子をみるとしよう。私は少し山を登ってくるよ。調べたい事があるのでね」


 そう言うと、口にくわえていたキセルの先端から、ポンッと可愛い音を立てて花が咲いた。


 「じゃあ、気をつけるんだぞ」



 スッと。静かに黒長帽子の男の姿が影に消える。



 「今の手品は読めなかったな」













 

 


 

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