春ノ切レ味 甲
一
春。
桜。
卒業。
入学。
花見。
ざっとこんなもんかな?『春といえば』っていのをパッと頭に浮かんだ物を挙げてみたが。
春というと『新しい』という感じのイメージが強いと思うが、僕は違う。
「は・・・」
春に来る強烈な『来訪者』。
「は・・・」
多くの人類を苦しめる、超害悪未確認飛行物体。
「ぶぁあああっくしいい!!」
そう。花粉である。
主な症状の原因は『スギ』だが、僕は『ヒノキ』も持っている。
一時期収まったかと思うと、一定期間後経てまたやってくる。
もうヤバイ。花粉に殺されるなんてまっぴらだ。
いっそのこと整形手術で鼻をもぎ取ってやろうか。それはやりすぎか。
「うう・・・」
鼻抜け声でめばちこ状態。おっとここで、本日2個目のポケットティッシュ入りまーす。鼻が擦れて真っ赤になってます。手術なんかしなくても、そろそろもげるんじゃないだろうか。
「ぐしっ・・・」
ていうかさっきから、鼻に関する効果音しか放ってないじゃん!喋らなきゃ。小説なのに喋ることに必死になるってどういうことよ。
「ブゥゥゥゥ・・・」
今のは鼻をかんだ音ね。別に物凄い屁をこいたワケじゃないから。てかなんか喋らなきゃ!このままだと俺が鼻をかむ音で一話を消費してしまう!それだけは避けなければ!
「はて、ひょうわぼかついほっかな」
ちょ!!!鼻つまりすぎて何言ってるかわかんねえ!!自分でも分かんねえ!!マズイ、マズイぞ。ドラえもんで言うとタイムマシンが故障して時空間に大きな穴が空いた時くらいヤバイぞ!
「あの・・・」
「あい」
と、そこで誰かに話しかけられた。
おにゃのこ。
いや、少女。
とはいっても僕より5cmくらい低いだけ。
この高校の制服を着ているから、おそらく新入りの1年生だろう。
「あの、月詠書店ってどこにあるか知ってますか?」
「ふくよみひょてん?」
月詠書店。ギリギリ校区内に入っている、学生御用達の人気書店である。
なんといっても本の品揃えが素晴らしい。予約も受け付けており会員なら最大12%OFFになるのだ。これって安いのか?(笑)
『年明けリニューアル』とかなんかで1月の始めに外装が変わったが、『前の方がよかった』という声も良く聞く。どうでもいいね。
まあ、僕はその書店に場所を知っているワケだから、
「ひってますほ」
おいまて。何語だ。
「はい?」
困っている。明らかに。
「はにゃがふまってひゃべれないんでう」
訳:はながつまってしゃべれないんです。
「花粉症ですか?」
僕はコクコクと頷いた。
「じゃあ、これ飲んでみてください」
そう言うと彼女は制服の内ポケットから、えと、なんだっけ、あの、よく警察官が証拠品を入れたりするあの透明な袋(作者の検索力が皆無の為ご許しください)。その袋の小さいバージョンを彼女は取り出した。
その袋には、風邪薬のような小さなカプセルが1つ入っている。
「私も花粉症なんです。これを飲むと、物凄く楽になるんですよ」
「ほんほうでうか」
訳:ほんとうですか
「もう私は飲んだので1つあげますよ」
彼女は袋からカプセルを取り出し、差し出してきた。
なんだろうな。女子から手渡しで何かを渡される時、ちょっと緊張しない?例えばコンビニで結構美人な店員さんから、レシート受け取り、次に小銭受け取る時にちょっと触れたりしちゃう時。その後の『ありがとうございました』がもう!うん!どうでもいい!!!
遠慮なく僕はもらう。この鼻づまりが治るならそれでいい。
そして彼女からカプセルを受け取る時、少し彼女の指先に触れる。
ちょっとドキッとした。ちょっとだけよ。
てかなんだろう。さっきから『袋』とか『カプセル』とか『受け取る』とか、このやり取りの本意を知らない人が見たら凄い怪しい人達だな。密輸人みたいね。
ちょうど鞄にペットボトルがあったので取り出してみる。おお、水じゃないか。
というわけでさっそく飲んでみた。そんなすぐ効果が現れるハズがないが、
「ありがとう。楽になったよ」
と言っておいた。て、アレ?もう楽になってる。効き目凄いな。なんていう薬なんだろうか。こんな薬なら一日800円払っても毎日一粒買うわ。
「それで書店の方なんですけど・・・」
「ああ、知ってるよ。案内しようか?」
「本当ですか?ありがとうございます」
なんかしっかりしてんなー。俺の姉とは大違いね。
ちなみに俺には2つ上の姉が居るのだが、話すととてつもなく長くなるので保留しときます。
というわけで僕は彼女を月詠書店まで案内することにした。
二
桜咲く頃にありがとう。
なんか聞いたことあるなこの歌詞。
ともあれ、今は彼女を書店に案内している最中である。
無言のまま歩くのもなんだから、僕は話題を持ちかけてみた。
「君って一年生だよね」
「そうです」
「月詠書店を知らないってことは、別の地方から通学してるとか?」
「いえ、受験前に親の仕事に都合が出来てしまって。志望校はあったんですが、ここからだと流石にに通学に時間が掛かりすぎちゃうんで、とりあえずこの高校を受験しました」
「とりあえずて・・・」
高校受験ってそんな簡単な物だったっけ?俺なんか結構悩んだんだけどなー。とはいえこの高校の偏差値は58程度の中間私立校なので『受験』そのものにはあまり苦しまなかったが。
「で、志望校はいいところだったの?」
「私の成績だとギリギリの所でしたね。受けていても落ちていたかもしれません」
「そうかー。見たところ頭良さそうだしな。こんな高校似合わないよ」
「そんなことは・・・」
すると彼女は下を向いて黙ってしまった。照れているのか?結構億手なところがあるんだなー。
「それで?この高校、見たところどう思う?」
とはいっても、『桜がキレイ』ぐらいしかないだろうが。
「桜がキレイですね」
「ですよねー」
テンプレ万歳。
とか言ってる間に『月詠書店』の看板が目に止まった。
「ここだな。着いたよ。お疲れさん」
「今日はありがとうございました」
ペコリと。
とても丁寧にお辞儀する。
「全然オッケー。こっちこそ薬ありがとなー」
「いえ。つまらないものですからね。では、私は行きますね」
「ん。じゃあね」
もう一度お礼をしてから、彼女は本屋へ走り去って行った。
稀に見る可愛い子だったなー。世界中の女子があの子にならないだろうか。それは怖すぎるか。
それにしても花粉が全く効かないぞ。おそるべし効力・・・。
あ、薬の名前聞くの忘れてたな・・・。しまったあああ。また明日になると今回の八行目から繰り返しになるのかなー。嫌だなー。
ぶつぶつ言いながら、今回のお話を『お愛想』としましょう。では。