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アロマキャンドル

作者: apple

最後の町田小春の年齢が35歳になっていますが、42歳の間違いデス。すみません

町田小春(マチダコハル)。42歳の会社員。ちなみに未婚。

女性の華の時期はとうに過ぎ去り、ただ仕事をこなすのみ。毎日同じような日々が過ぎてゆく。

そんな町田小春の唯一の趣味

「アロマキャンドル」。

最近はキャンドルといっても様々な種類が売られている。『バラ』『ローズマリー』『タイム』………というようなものだ。

初めは町田小春もそういう類のキャンドルを収集し、週末には火を燈して香りを楽しんだ。

だが町田小春の人生において、そんなものが長続きした試しがなかった。きっかけは突然訪れる。

家の近所にある寂れた商店街。その一角にたたずむ小さな店。

EFIL(イーフィル)

店の名前からは、何を売っているのかわからない。

仕事帰りの町田小春はだが、何かに吸い込まれるように店を訪れた。

そこには数多くのアロマキャンドルが揃えられていた。

少なくともそう見えた。だが、商品名が奇妙だ。

安い品では『幸せ』『恐怖』『怒り』など。

高い品だと『聖徳太子』『織田信長』にはじまり、『国分太一』『大塚愛』というキャンドルもある。

アロマキャンドルへの興味を失いかけていた町田小春に、新たな興味が生まれた。

早速、『幸せ』というキャンドルを購入した。


週末の夜。『幸せ』と名のついたキャンドルに火を燈す。細く白い煙がユラユラと立ち上る。

何の臭いかはわからないとのの、なかなか良い香りだ。

頭がポーっと………町田小春は意識を失った。


ふと、町田小春は目を覚ました。時計を見ると、火を点けてから小一時間ほどたっていた。

うんと背伸びすると、やけに気持ちがいい。何があったワケでもなく、いつも胸のあたりにある《悶々とした何か》が無いのだ。

町田小春は納得した。つまり、今自分は『幸せ』を感じているのだ。もちろんキャンドルの効果で。『恐怖』というキャンドルを焚けば、自分は何が起こったワケでもないのに恐怖を味わうことになるのだろう。

では、『大塚愛』というキャンドルはどういった気分にさせてくれるのだろう。

気になる。

次の日、町田小春は『大塚愛』というキャンドルを購入した。

そしてまた週末。

『大塚愛』といえば、今人気の若手歌手。少なくともマイナスの効果は無いはず。

期待に胸を膨らませ、キャンドルに火を燈した。途端に意識が朦朧となる。

耳に大勢の人の歓声が聞こえる。

自分を照らすスポットライトの光を感じる。

そして私は『大塚愛』…………

そこで意識が途切れた。


町田小春が目を覚ましたのは翌日の早朝だった。気分は爽快で、何かを成し遂げた実感が身体にあった。

おそらく自分は、大塚愛になりきって歌を歌って大人気、という気分を味わったのだ。

『大塚愛』のキャンドルによって。

町田小春のキャンドル収集はみるみる進み、毎日のように火を燈した。

『哀しみ』のキャンドルを焚けば、ワケもないのに何時間も涙が止まらなかった。

『浅田真央』のキャンドルを焚けば、フィギュアスケートを華麗に踊った後の気持ちを味わえた。『宮本武蔵』のキャンドルを焚けば、荒々しい戦いを切り抜けた気持ちを味わえた。

そうして、店のほとんど全ての種類のキャンドルを制覇した日、新たな事実に気がついた。

何しろ珍しいキャンドルだけあって入荷が間に合ってないのか、店に置かれているキャンドルが相当少なくなった。だが、今まで買っていた棚の奥に、目立たないがまだ相当の数のキャンドルが置かれている。

町田小春はその中のひとつを適当に手に取った。キャンドルの名前は『町田小春』……自分と同じ名前のキャンドル。

妙に気になった。

購入するためにレジに持っていくと、店主は首を横に振った。

それは¥0だと言われた。

町田小春はとまどいながらも、『町田小春』を持って家路についた。


キャンドルに火を燈す。いつも通り、煙がユラユラと立ち上る。

……何かこの煙は色が黒っぽい。まるで濁ってしまった水を見ているようだ。

臭いもおかしい。いつもは部屋中に何とも言えない香りが広がるのに、この臭いは……そういえば昔、鉄に硫黄を混ぜて熱したらこんな臭いが広がった。卵が腐った臭い、と言っていた。

堪らず窓に向かおうとする。が、いつも通り町田小春の意識は遠さがってゆく。

町田小春は意識を失った………。


次に目を覚ましたのは、なんと次の日の夜中だった。前日の夜からキャンドルを焚いて、約30時間も意識を失ったことになる。

気分は酷く悪い。まるで、何もない街を何日もさ迷ったような気分。

キャンドルは商品名の人物や気分を体感させる。間違いない。このキャンドルの指す『町田小春』とは自分を指しているのだ。

こんなにつまらないキャンドルだ。¥0というのも頷ける。町田小春は深い、深い溜め息をもらした…………。


町田小春(マチダコハル)。38歳。バリバリの会社員。ちなみに未婚。

だがこの間、少し年上の上司とお付き合いを始めた。結婚なんてもう無理だと思っていたが、こんな私にもチャンスはあるものらしい。

趣味は、週2回のエアロビクス。それに、週末のテニス。

そして、アロマキャンドル。

『町田小春』を買った(¥0で)時依頼、あの店には行っていない。

店を閉めてしまったらしい。あそこには今は空の建物があるだけだ。

だが、町田小春はあの店のおかげで、人生を諦めていた自分を変える機会を得た。

今は、自分の人生を一生懸命磨いている。

キャンドル『町田小春』が良い香りになり、誰かに買ってもらえるように────。

appleです。短編を主に書きます。気になった方は、「apple」で検索してみてください。

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