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タイアップ  作者: 碧水
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第一章

 翌日、目が覚めるとリビングの机の上に紙が置いてあった。

 その、紙にはこう書かれていた。

<今日は早めに仕事は切り上げますが家に帰っても出来る限り話かけないで下さい>

 どうやら既に、仕事には出掛けたらしい。

 彼女は仕事をしながら小説を書いているらしい。

 作者名は望月アリス。主に女性に人気がある作者らしいが、どのくらい有名なのかは、俺が知ったところではない。

 そういうことは、教えてくれるのに、本名や本職については何も教えてくれない。

 否、本名は一度だけ聞いたことがあるが、思い出せない。

 考えると昨日から続いている耳鳴りが更に酷くなった気がした。

 微かに記憶に残っているのはペンネームと本名が逆さになったような名前だ。

 確か、有定……。どうしても思い出せない。確か日本の月の名前だ。

 これ以上、考えた所でどうにもならないので取り敢えずは学校に行くことにした。

 学校といっても大学なので講義を受けるだけだ。

 別に目指す物がなかったので知り合いに誘われ一緒に受験したが、その知り合いは落第し、自分のみが合格した。

 学部は心理学部だ。

 その時は心理学というのが珍しい学部だった為、受けて見ることにしたのだ。

 知り合いとはそこで別れることになったが未だに付き合いはある。

 ここまで来ると腐れ縁とも言うのだろう。

 大学に入り講堂まではいると呼び止める声がした。

「よ! 和喜」

 彼が腐れ縁の伊佐美樹いさみいつきだ。

 幼稚園からずっと同じ学校に通っている。

 樹が受験した学部は経済学部。

 先程、落第したと言ったが、樹は次の年に一期下の経済学部に合格した。

 一年間、浪人生活とか樹は笑っていたが、必死に頑張っていたことはよく知っている。

 初めに同居した人物は樹だ。半年は続いたがそれ以降は樹が部屋から出ていった。

「お早う。樹」

 俺が挨拶すると樹は笑顔を見せてくれる。

「相変わらず、寝坊助だな〜]

 相手は上機嫌に嫌味を言う。頭を一発、殴ろうかと思ったが、止めた。

「俺はいたって普通に来てるからな。寝坊助、言うな!」

「分かった、分かった。

 で、今の同居人とは上手くやってんのか?」

 全く人の話を聞いているのかいないのか、アレコレと話題をかえる。

「お前より長く続いている。

 もう少しで八ヶ月」

 よく、考えたら結構続いている。自分でも感心してしまうくらいに。

「ふーん。理解がある奴と暮らしているんだな。俺の紹介した奴?」

 そう言えば、同居人が居なくなると家賃などの問題で大変だろうと彼の友人と一時的に暮らしたが長くは続かなかった。

「いや、町で意気投合した奴だけど」

 女というと話が大事になりそうだったので、ふせておいた。

「何? もしかして、同族と? うわぁ……ついにお前は……」

 樹の顔が青ざめていくのがわかった。

 反応的に面白かった。のだが、直ぐにその表情が演技なのがわかった。

「あのな、ここだけの話だからな」

 彼の耳元に顔を近づけて訳を話した。

「言っとくけどゲイじゃないぞ。レズだレズビアン。即ち女性」

 今度こそ彼は驚いたようだ。

 勿論、彼は俺が女性を好いていないことは知っている。

 大体、一番初めに好きだと告白してきたのが、彼だった。

 俺も好きで両思いだったのは以外だった。

 もし、彼の勇気がなかったら、俺はずっと一人で気持ちを背負って生きていただろう。

 少なくとも、彼と一緒の大学には通っていなかった。

「お前の人間関係が壮絶なものになり初めているな……。

 でさ、今、フリーなら縒り戻さない?」

 彼もまた耳元で囁く。

 場所は考えて欲しいものだ。顔が赤くなるのがわかる。まだ、自分の中に未練があるのが悔しかった。

「考えとく。

 でも、場所くらい考えろよ」

 彼が夕方の六時に何時もの場所でとその場で最後に言われた言葉だった。

 その後、講義を受けて言われた場所に向かった。

 大学から然程離れていないファミリーレストラン。

 既に樹が指定の場所にいた。

「おっ! 来たか。

 何か頼む?」

 メニューを指しながら問いかけてくる。

「珈琲をお願いします」

 樹のいる机に向かいながら彼にいう。

 樹はそばにいたウエイトレスに話しかけて注文をした。

「そんで、結論はでた訳? 俺はさどーでも良いけどさ。駄目なら新しい子、探すから。

 お前みたいな可愛い奴」

 笑いながら樹は語る。

 言う答えは始めから決まっていた。昔のように求められたから。必要としてくれたから。

「嫌だね。

 大体、何先輩に告ってんの?」

 始めから出ていた。必要としてくれたけど、彼は一般だ。これ以上、俺に縛りつける訳にはいかない。

 本心を言うと嬉しかった。だけど、俺はそれを拒まなくては何時までも彼を必要としてしまうから。

 言いたくは無かった。でも、言わなければ何も解決しないから。ご免な。

「何でだよ? 俺とはもう付き合えないって? 先輩だからって……同い年だろっ」

 萎縮してしまった。

 彼が以外にも低かったから。

 彼の顔から負の念が漂ってくる。彼の静かな声がさらに告げる。

「お前の事が好きなんだよ……昔からずっと……。

 今でもこの気持ちは変わっていない」

「じゃぁさ、何で一回別れたの? お前に好きな子が出来たって言われたから別れたんだろ」

 これは同居していたときに言われた。

 今更、嘘だと言われた所でどうも思わないが、何故、同居を止めたのか理由は知りたい所だ。

「ずっとお前の側に居たかった。だけどそれじゃ、お前と同じ大学は無理だって分かったから。

 お前の事を考えていると体が……」

 これ以上は公共の場では相応しくない。

 口の前で人差し指を立てた。二人だけの合図。それ以上は言わなくても伝わったから。

 二人のいる場所だけ暫く沈黙が訪れた。俺は人差し指で唇を二回叩いた。

 この行動は別の場所に移動しようという合図。二人しか知らない、特別なもの。もっともっと、増やしていきたい。言葉などよりも二人だけの秘密が欲しい。

「俺は……俺も好きだよ。だから、俺はお前とはもう友達以上の関係にはならないって決めたんだ」

 決意を無駄にするかのような告白だったため余計にイラついたのだろう。この合図とともに思い出した。本当に大事なものは側に残しておきたい。一番離れたくないから……このまま永遠に友達として付き合っていきたかったから。

 樹も察してくれているだろう。

「そんなんで俺が納得すると思うか? 俺はお前と一緒に居て友達で……いられるほど人間出来てないさ」

 樹が急に立ち上がった、と思ったら段々と俺の方に近づいて来ていた。

 まだ、店から出ていなかった為、俺が座ったテーブル席の椅子の壁側まで下がったが樹は近づいて来て……このままだと顔が重なってしまうな……とか思っていると、唇が重なった。

 軽く触れるだけのキス。その感覚は懐かしく感じられた。だけど、昔よりも上手い。

 って、何考えているのだか。それより、この場でこれ以上、進んでしまったらまずいよな。

「お願いだから……これ以上は……ダメッ」

 彼を上目遣いに見上げる。目には微かに涙がたまっているのが、自分でも分かる。

 樹は不敵な笑みを浮かべて此方を見下げている。

「それは、この場ではキス以上はやめて欲しいって事?

 それとも、今後一切キス以上は認めないって事?」

 樹の笑みに俺は萎縮してしまった。

 もし、後者を選んだ場合は長年の付き合いから判断して、この場で身ぐるみを全て剥がされる勢いだろう。

「えっと、此処では……駄目ってことっ」

 全てを言う前にまたキスをされ、唇が塞がれる。

 少しだけ離れたと思ったら樹の口から舌が出て、またキスをする。

 自分でも意外なほど簡単に樹の舌に自分の舌を絡ませる。

 時折、甘い自分の声が漏れてしまったのが、とても恥ずかしい。

 樹とのキスの後、顔が真っ赤になっていて、とてもではないが、まともに顔を見ることが出来ない。

「彼処に行くか……」

 樹が立ち上がって俺の手を掴む。

 振り払おうとしたが、彼の力が以外と強くて振りほどけない。

 彼の手に導かれてやって来たのはホテル街にある一つのホテル。

 無理矢理連れて来られたのは良いが、やっぱり親友としては見てくれて居ないとはっきりした。

「此所って?」

 彼とは何度か寝たことがあるが、この施設を使うのは初めてだった。

 別に来たことが無いとかそういう訳ではなく単純に樹と来るのは初めてだった。

「元バイト先。辞めたけどな」

 彼が笑いながら言う。

 以外とそういうバイトもしていたんだという驚きもあったが、樹ならではなバイトだな、と納得してしまう。

「あれ? 以外だなとか思わない訳?」

 思ったけど一瞬でそんな考えは無くなったから認めるのも気が引けた。

「此処に来たってことは、やる気、何だな。

 シャワー、浴びてくる」

 とにかく、気持ちを落ち着かせようと、思った。この状況を打開する方法を考える為に。

「分かった」

 素直に了承してくれたのは、嬉しい。

 引きこもるようにして俺はシャワー室に消えていった。

 その後、何も考えずに部屋に戻る。戻った時には遅かった。

 何も考えて無い。どういう風に乗り越えよう。

「……和喜」

 いつの間にかに樹が目の前に居た。

「えっ?」

 思わず声を出してしまった。

 樹はすかさずキスをした。濃密で深い、それでいてどことなく優しいキス。

 キスだけで立てなくなりそうになったのは、何ヵ月ぶりだろうか。

 その後、彼の手で何度、逝かされたか何て覚えてない。


***


 次の日、何時もと違う天井だと起き上がろうとしたが、腰に鈍い痛みを感じて起き上がれない。

「っう〜」

「お! 起きたか」

 清々しい顔で聞かれかなりムカついた。顔をプイッと背けた。

 もう、友達として見れないではないか……あんなことされて、また友達としてやっていける訳無いじゃないか。

 大学で会っても前みたいに話せる訳がない。

「何、怒ってんの? 逆に怒んない方が怖いか」

 彼は豪快に笑った。

「怒るって分かっていて何で抱いたんだよ」

 顔は合わせられなかった。今、顔を合わせたら樹がきっと、傷付くから。あとは、俺のプライドが許さないから。

「そーだよな、お前が嫌がってるのに無理矢理、ヤったから強姦だよな」

 急に何を言い出すんだ。そんな事、今更ではないか……。

「互いが納得した上でする和姦とは話が違うからな〜

 警察に訴えることも可能だぜ」

 何を馬鹿な事を言ってるのだか。

 俺は別に彼の事を訴えるつもりはない。最終的にはもう、どうでも良いと思ったから。

「縒りを戻す、て話……乗ってあげても良いよ」

 何だか本当にどうでも良くなってきた。

 話はすっかり、戻ってしまったが、きっとこれで良かったのだろう。

 痛む身体を無理矢理起こした。

「えっ? それってマジ?」

「本当に本当。

 フリーだったし。お前も今は相手、居ないんだろ」

 首を勢い良く縦にふる。同意の意味だろう。

「それじゃ、付き合う代わりの条件を一つ」

 彼は条件? と首を傾げたが気にせずに言葉を続ける。

「お前にもしも彼女が出来た場合は別れる」

 最低限の条件だ。流石に彼女が出来たら付き合う訳にはいかない。

 彼女の方から引いてしまうだろう。男同士でなんて……。

 世間一般の目は厳しいのだ。

「俺は絶対に彼女は作らないぜ。

 大体、本命はお前しか居ない」

 真剣な瞳で樹が此方を向いてくる。それは告白だと確信出来たが胸の内に止めておいた。

「バーカ。そんなんじゃ、婚期逃がすぜ」

 軽い冗談。

 今はこんなことを、言える仲でずっと居たいって思える。

 その内、きっと色々と困難が待ち受けていると思うから、さ。

 この時だけは残るように。

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