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エピローグ:百歳の少女、現実(リアル)にハナマルを付ける

「あらあら、まあ。……ついつい、長居をしてしまいましたねぇ」

 

ゴーグルを置いた炬燵こたつの上には、飲みかけのほうじ茶と、少しだけ乾燥したお煎餅が二枚。

 

ゲームの中では「魔王城の主」として世界を救っていたキヨさんですが、現実の彼女は、札幌の片隅で静かに暮らす、背中の少し丸まったおばあちゃんです。

 

ふと隣の部屋を見ると、学校から帰ってきた孫のサエキくんが、タブレットで一生懸命に絵を描いています。

 

「サエキさん、お帰りなさい。……今日も素敵な絵を描いているようですねぇ」

 

「あ、おばあちゃん、起きた? ……うん。今ね、YouTubeのグループに使ってもらう『ゆるい動物』を描いてるんだ。見て、これ」

 

サエキくんが差し出した画面には、どこかあの世界で見守っていた「スノウ」の微笑みに似た、温かくて優しいタッチの動物たちが躍っていました。


キヨさんは、その画面にそっと指を伸ばし、空中に「ハナマル」を描くように動かしました。

 

「はい、ハナマルですよ。……サエキさんの描く絵は、世界中の人の心を温めますわ」

 

「えへへ、ありがとう。……おばあちゃん、さっきまでまたあのゲームやってたの? 『魔王城の隠居所』だっけ」

 

「ええ。……セシルさんも、リタさんも、スノウさんも。みんな元気に『明日も会いましょう』と言ってくれました。……あちらの世界も、もうすっかり、お茶の間のように穏やかになりましたよ」

 

キヨさんは立ち上がり、台所へ向かいました。

 

VRゴーグルの中のような「創世の聖具」はここにはありませんが、長年使い込んだアルミの薬缶と、サエキくんが好きな少し甘めのお味噌があります。

 

「さあ、サエキさん。……現実のお夕飯も、おしとやかに、けれどたっぷり作りましょうか。……今夜は、あなたが大好きなお芋の煮っころがしですよ」

 

「やった! おばあちゃんの煮物、世界で一番好きなんだ」

 

キヨさんは、トントンと小気味よい音を立てて野菜を刻み始めました。

 

VRの世界で徳を積んできた彼女にとって、ゴーグルの中も外も、境界線はありません。

 

「困っている人がいたらお節介を焼き、美味しいものを食べて、笑って眠る」

 

そのシンプルで強力な魔法は、今、この札幌の小さな台所からも、夕餉の香りに乗って世界へと広がっていきます。

 

窓の外では、北海道の春を待つ冷たい風が吹いていましたが、キヨさんの家の中だけは、まるで世界樹の桜が満開であるかのように、どこまでも温かな陽だまりに満ちていました。

 

「ふぅ。……今日も、良い一日でしたねぇ」

 

おばあちゃんの日常は、これからもずっと、ハナマルと共に続いていくのです。

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