表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/42

第三話 ドワーフの忘れ物と、僕らの城 第3部『僕らの城と、今夜は星空の下で』


その夜、僕たちの郷には、いつもより盛大な焚き火が燃え盛っていた。

「二人とも、お疲れ様! 今日は俺が腕によりをかけて、お祝いのご馳走を作るぞ!」

ガラクは、建築作業でついた泥をものともせず、意気揚々と調理に取り掛かる。僕がドワーフの斧で即席の串を作り、ガラクが森で採ってきた香りの良いキノコや、畑の野菜を刺していく。それを火で炙り、貴重な岩塩を振りかけると、たまらなく食欲をそそる匂いが立ち上った。


「うまい……!」

熱々の串焼きを頬張ると、野菜の甘みとキノコの旨味が口いっぱいに広がる。懸命に働いた後の食事は、世界で一番のご馳走だった。コハクもハグレも、夢中で串にしゃぶりついている。ガラクは「もっと焼くからな!」と嬉しそうに言い、僕たちは顔を見合わせて笑い合った。


食事が終わる頃には、すっかり夜の帳が下りていた。

僕たちは、完成したばかりの骨組みの下に、それぞれ干し草を敷いて眠りにつく。まだ壁はなく、夜風が少し肌寒い。けれど、頭上に確かに存在する屋根が、雨や夜露から僕たちを守ってくれるという事実は、何物にも代えがたい安心感を与えてくれた。


やがて、ガラクの穏やかな寝息と、僕の腕の中ですっかり安心しきっているコハクの「きゅん……」という寝言が聞こえてくる。少し離れた場所で体を丸めているハグレからも、すうすう、という静かな呼吸。


僕は、そっと目を開ける。

骨組みの隙間から、満点の星空が見えた。前世で暮らした街の空とは比べ物にならない、無数の星々の瞬き。それはまるで、僕たちのささやかな城の完成を、天が祝福してくれているかのようだった。


追放された時には、何もかも失ったと思った。

明日を生きる希望さえ、見失いかけていた。

けれど、今、僕の周りには、無邪気に寝息を立てるコハクがいる。ぶっきらぼうだけど優しいハグレがいる。そして、自分の料理を「美味しい」と言ってくれる仲間たちのために、明日の献立を考えながら眠るガラクがいる。


「……ここは、僕らの城だ」


誰に言うでもなく、そう呟いた。

夕焼けに染まっていた僕たちの最初の城は、今、月光と星明かりを浴びて、静かに銀色に輝いている。

まだ壁も完成していない僕たちの城に、また一つ、温かくて賑やかな思い出が刻まれた。

――こうして、僕たちの郷の毎日は、少しずつ、だけど確かに、世界で一番幸せな場所へと変わっていく。



---


ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになります。これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ