第三話 ドワーフの忘れ物と、僕らの城 第3部『僕らの城と、今夜は星空の下で』
その夜、僕たちの郷には、いつもより盛大な焚き火が燃え盛っていた。
「二人とも、お疲れ様! 今日は俺が腕によりをかけて、お祝いのご馳走を作るぞ!」
ガラクは、建築作業でついた泥をものともせず、意気揚々と調理に取り掛かる。僕がドワーフの斧で即席の串を作り、ガラクが森で採ってきた香りの良いキノコや、畑の野菜を刺していく。それを火で炙り、貴重な岩塩を振りかけると、たまらなく食欲をそそる匂いが立ち上った。
「うまい……!」
熱々の串焼きを頬張ると、野菜の甘みとキノコの旨味が口いっぱいに広がる。懸命に働いた後の食事は、世界で一番のご馳走だった。コハクもハグレも、夢中で串にしゃぶりついている。ガラクは「もっと焼くからな!」と嬉しそうに言い、僕たちは顔を見合わせて笑い合った。
食事が終わる頃には、すっかり夜の帳が下りていた。
僕たちは、完成したばかりの骨組みの下に、それぞれ干し草を敷いて眠りにつく。まだ壁はなく、夜風が少し肌寒い。けれど、頭上に確かに存在する屋根が、雨や夜露から僕たちを守ってくれるという事実は、何物にも代えがたい安心感を与えてくれた。
やがて、ガラクの穏やかな寝息と、僕の腕の中ですっかり安心しきっているコハクの「きゅん……」という寝言が聞こえてくる。少し離れた場所で体を丸めているハグレからも、すうすう、という静かな呼吸。
僕は、そっと目を開ける。
骨組みの隙間から、満点の星空が見えた。前世で暮らした街の空とは比べ物にならない、無数の星々の瞬き。それはまるで、僕たちのささやかな城の完成を、天が祝福してくれているかのようだった。
追放された時には、何もかも失ったと思った。
明日を生きる希望さえ、見失いかけていた。
けれど、今、僕の周りには、無邪気に寝息を立てるコハクがいる。ぶっきらぼうだけど優しいハグレがいる。そして、自分の料理を「美味しい」と言ってくれる仲間たちのために、明日の献立を考えながら眠るガラクがいる。
「……ここは、僕らの城だ」
誰に言うでもなく、そう呟いた。
夕焼けに染まっていた僕たちの最初の城は、今、月光と星明かりを浴びて、静かに銀色に輝いている。
まだ壁も完成していない僕たちの城に、また一つ、温かくて賑やかな思い出が刻まれた。
――こうして、僕たちの郷の毎日は、少しずつ、だけど確かに、世界で一番幸せな場所へと変わっていく。
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