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第三話 ドワーフの忘れ物と、僕らの城 第2部『忘れられた石切り場と、一振りの斧』


僕たちは、第一部の最後に発見した、不気味に削られた木々の謎を追って、これまで足を踏み入れたことのない、森の深部へと進んでいった。鬱蒼と茂る木々が太陽の光を遮り、昼間だというのに、あたりは薄暗い。

と、その時。行く手を阻むように現れた、蔦に覆われた巨大な岩壁に突き当たった。

だが、それはただの岩壁ではなかった。注意深く見ると、その表面には明らかに人の手……いや、人ならざる者の手による、規則的で美しい削り跡が残されている。

「ここ……昔の石切り場、かな?」

僕たちは、まるで巨大な生物の亡骸の中を進むように、切り拓かれた道を進んでいった。そこは、遥か昔にドワーフたちが放棄した古い石切り場。苔むした石段、風化したトロッコのレール。湿った石と土の匂いが、時の流れを物語っていた。

探索を続ける僕たちの前で、コハクが「きゅん!」と一声鳴いて立ち止まった。彼が見つめる先、石切り場の中央に突き立つ巨大な切り株に、何かが夕日を反射して鈍く輝いている。

それは、一振りの斧だった。

使い古されているはずなのに、刃こぼれ一つない。ドワーフの魂が宿っているかのような、見事なまでに均整の取れた美しい手斧。誰かが振り下ろした、その瞬間のまま、持ち主を失って幾星霜が過ぎたのか。

僕は、何かに引かれるように、その斧に近づいた。

黒曜石のように滑らかな柄は、僕の手には少し大きい。だが、そっと握りしめた瞬間、脳内に二つの記憶が、まるで稲妻のように駆け巡った。

『――シルヴァン、斧は力で振るうな!体の軸で、遠心力で振るうのだ!』

厳格な父の声。武門の家で、来る日も来る日も叩き込まれた斧術の記憶。

『――いい道具ってのは、まるで自分の体の一部みたいに馴染むもんなんですよ』

前世で見ていた、日曜大工番組の親方の、笑い声。

二つの世界の、二つの記憶が、この一振りの斧の中で完全に一つになった。

斧の重みが、まるで自分の腕の延長のように、しっくりと馴染んだ。

「(これなら……この一振りがあれば、やれる!)」

確信が、胸の奥から湧き上がってくる。斧の根本には、偶然にも苔むした砥石が転がっていた。まるで、僕を待っていたかのように。

拠点に戻った僕たちは、早速、家作りを開始した。

郷には、新たな音が満ち溢れる。僕がドワーフの斧を振るう、ズドン、という力強い音。ガラクが木材を運ぶ、「うおおっ!」という気合の雄叫び。コハクが地面を均す、「あうー!」という可愛らしい鳴き声。そして、ハグレが爪で印をつける、カリッ、という静かな音。

それら全てが合わさり、僕たちの郷を築く、最高の協奏曲となっていた。

僕がドワーフの斧を振るうと、面白いように木材が切り出されていく。以前の僕では一日がかりでも傷一つ付けられなかったような大木が、正確無比な軌道を描く刃の前では、まるでバターのように断ち切られていった。

コハクは、僕たちが土台を作ろうとしている場所で、完璧な水平の基礎を作り上げてくれる。

遠巻きに見ていたハグレも、僕が二本の木材の角度を合わせるのに苦戦しているのを見ると、おもろむろに近づき、僕の足元に、まるで「ここに置け」とでも言うように、爪先で正確な十字の印をつけてくれる。そのツンとした横顔は、少しだけ得意げに見えた。

日が暮れる頃には、僕たちの目の前に、ささやかな家の骨組みと、雨露をしのぐための屋根が完成していた。

夕焼けに染まる、僕たちの最初の城。

まだ壁もなく、吹きっさらしの骨組みだけれど、それは、"役立たず"と捨てられた僕たちが、初めて自分たちの手で作り上げた、明日を生きるための希望の形だった。



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