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役立たずの【種子生成】スキルで追放されたので、辺境でもふもふドラゴンと自由に生きることにした  作者: はぶさん


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第十五話 奇跡の芽吹きと、醸造の唄 第2部『醸造の唄と、三つの心』

収穫した黄金の大麦を乾燥させ、麦芽を作る工程が始まった。

工房には、数十年の沈黙を破り、再び命が吹き込まれていく。水車が力強く回り、石臼がゴゴゴと唸りを上げて、香ばしい麦を砕いていく。ギムレットさんの動きには、一切の迷いも淀みもない。その姿は、もはやただの頑固な老人ではなく、酒造りという芸術を司る、威厳に満ちたマイスターそのものだった。


やがて、砕いた麦芽を巨大な銅釜で煮込み、甘い「麦汁ウォート」を作る工程へと入る。工房の中が、パンを焼くような、甘く豊かな香りで満たされていく。

湯気が立ち込める中、ギムレットさんは、巨大なかいでゆっくりと麦汁をかき混ぜながら、その喉から、低く、しかし力強い唄を紡ぎ始めた。


「――オー、山の父よ、恵みに感謝を」

「――オー、水の母よ、清き命を」


それは、僕が知らない、古いドワーフの言葉で綴られた「醸造歌」だった。酒造りの工程と、酒の神への感謝を捧げる、神聖な唄。その厳かで、美しい旋律に、僕も、コハクとハグレも、ただただ魅了されて聞き入っていた。


数時間にわたる煮込みと濾過を終え、黄金色の美しい麦汁が完成した。それを巨大な樽に移し、適温まで冷やす。そして、いよいよ、発酵の要である「酵母」を加える、最も重要な段階が訪れた。


「よし……」

ギムレットさんは、工房の最も奥にある、厳重に封印された小さな石の壺を、恭しく運んできた。彼の、一族に代々伝わる秘伝の酵母だ。

だが、彼がその封印を解いた瞬間、その顔から、血の気が引いていくのが分かった。

壺の中身は、完全に干からび、ただの白い粉塵と化していた。数十年の長きにわたる眠りは、あまりにも過酷だったのだ。酵母は、完全に死に絶えていた。


「……終わった」


ギムレットさんの膝が、がくりと折れる。再び彼の瞳から、光が消えた。

僕は、必死に声を絞り出した。

「ギムレットさん!まだです!まだ、終わりじゃない!」

僕は、前世の記憶をたぐり寄せる。

「酵母は、生き物です!糖を食べて、お酒を造る、小さな生き物!そして、その仲間は、果物の皮にもいるんです!」


だが、ギムレットさんは、激しく首を振った。

「邪道だ!わしのエールは、山の麦と、山の水、そして、この酵母だけで造られてきた!神聖な麦汁に、果物なんぞの不浄なものを加えるなど、先祖への冒涜じゃ!」


「冒涜じゃありません!」

僕は、必死に食い下がった。「これは、革新です!ギムレットさんの伝統と、僕の知識が合わされば、きっと、今までのエールを超える、最高の奇跡が生まれるはずです!」

僕の真剣な瞳と、その言葉の持つ奇妙な説得力に、ギムレットさんは押し黙る。職人としての矜持と、未知への探究心。その二つが、彼の心の中で激しくせめぎ合っていた。


やがて、彼は、絞り出すように言った。

「……やってみろ。だが、もし失敗したら、お前さん、ただじゃおかんど」


僕は、すぐに【種子生成】で、この世界にはない、野生酵母が豊富なブドウの種を生み出した。コハクとハグレの力で、それを瞬時に育て、実らせる。そして、その皮から、新しい酵母を培養した。

ドワーフの伝統技術と、僕の異世界の知恵が融合した、全く新しい酵母。

それが、黄金色の麦汁に加えられる。


僕たちの未来を乗せたエールは、今、巨大な樽の中で、静かに、その最初の産声を上げたのだった。

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