第十四話 酒造りのドワーフと、黄金の種 第一部『次なる夢と、南の山への旅立ち』
「ドワーフの……酒造家」
その言葉が、僕たちの郷に、新しい夢の種を蒔いた。
翌朝の食卓は、その話題で持ちきりだった。特に、ガラクの熱意は凄まじいものがあった。
「聞いたか、シルヴァン! 最高の酒だぞ! 考えてもみろ! 俺が作った、この脂が乗った猪の燻製肉を厚切りにして、じゅわっと炙る! そいつを口に放り込んだ瞬間に、ドワーフが作ったっていう、芳醇で、喉を焼くようなエールで流し込むんだ! くぅぅ……想像しただけで、天国が見える!」
彼は、まるでオーケストラの指揮者のように、両腕を振り回しながら、まだ見ぬ酒への賛辞を叫んでいる。
その隣で、ズボラも静かに、しかし熱く語った。
「ドワーフが作るものなら、きっと杯も最高のものを使うはずだ。石を削り出したものか、あるいは金属を鍛えたものか……。もし会えたなら、どんな道具で、どんな木を使って杯を作っているのか、ぜひ見てみたい。そして、俺の技術と、どっちが上か、試してみたい……!」
職人としての、純粋な探究心。その瞳は、キラキラと輝いていた。
みんなの夢を、ただの夢で終わらせるわけにはいかない。
僕は、数日後に交易のために郷を訪れたドガたちに、そのドワーフの噂について、より詳しい情報を尋ねてみた。
「ああ、あの頑固爺さんのことか」
ドガは、ガラクが作ったばかりの平焼きパンを豪快に頬張りながら、教えてくれた。
「南の、年中霧が晴れねえっていう薄気味悪い谷があってな。その一番奥に、ポツンと石造りの家が一軒だけあるんだと。だが、近寄る者は誰であろうと追い返す、相当な頑固者らしいぜ。気をつけな」
頑固な職人。その言葉に、僕は逆に、会ってみたくなった。本物の職人とは、得てしてそういうものだ。
だが、そんな相手に、ただ「酒を造ってくれ」と頼んだところで、門前払いが関の山だろう。心を動かすには、こちらにも、それ相応の「本物」が必要だ。
僕たちの、最高の「手土産」作戦が始まった。
ガラクは、数ある燻製肉の中から、木目のような美しいサシが入り、桜の香りが最も豊かに香る、最高の一品を選び出した。
ズボラは、ドワーフへの敬意を込めて、夜を徹して一つの木彫りの杯を彫り上げた。僕がドワーフの斧と出会った、あの石切り場で見つけた樫の古木を使い、側面には、僕たちの郷の仲間たち――誇らしげなリザードマン、実直なオーク、そして寄り添う二匹の竜の姿が、今にも動き出しそうなほど生き生きと彫り込まれている。それは、僕たちの郷の物語そのものだった。
そして僕は、数ページだけ完成した薬草図鑑の写しを、丁寧に革で綴じた。僕たちの知恵と、村を救ったという、ささやかな実績。それが、僕たちの身分証明書代わりだった。
出発の朝。郷の仲間たちが、僕たちを見送ってくれる。
いつもと違う空気を察したのか、コハクとハグレは、僕の足元から片時も離れようとせず、そわそわと尻尾を揺らしていた。新たな冒険の始まりを、彼らもまた感じ取っているのだ。
「シルヴァン、道中、これを食え。腹が減っては、戦も交渉もできねえからな!」
「この杯が、あんたたちの旅路を守ってくれるはずだ。俺たちの、魂を込めたからな」
ガラクとズボラが、それぞれの贈り物を、僕の背負子にそっと仕舞ってくれた。
「うん、ありがとう、二人とも。最高の仲間を、連れて帰ってくるよ」
仲間たちと固い約束を交わし、僕とコハク、ハグレの三人は、南の山を目指して、再び旅に出た。
今度の旅は、郷をさらに豊かにするための、希望に満ちた旅だった。




