第十三話 新たな家族と、小さな命の温もり 第2部『初めての卵と、ドワーフの噂』
僕が【種子生成】で生み出した栄養満点の牧草を食べ、ヒナたちはすくすくと、そして驚くほどの速さで成長していった。
あれほど小さかった二羽の体は、数週間もすると、美しい羽毛に覆われた、立派な若鶏へと姿を変えた。世話係のヒロイくんが、まるで我が子のように愛情を込めて育てているおかげで、彼らはとても人懐っこく、僕たちが小屋に近づくと、嬉しそうに駆け寄ってくる。その愛らしい姿は、すっかり郷の癒やしとなっていた。
そして、運命の朝が訪れた。
「「おおおおおおおおっ!」」
郷中に響き渡ったのは、ガラクと、そして毎日欠かさず誰よりも早く小屋を訪れていた世話係のヒロイくんの、魂からの絶叫だった。何事かと、僕もズボラも、慌てて厨房エリアへと駆けつける。
二人は、ニワトリ小屋の前で、その体をわなわなと震わせながら、抱き合って喜んでいた。
「み、見ろ……!」
彼が、震える指で指さす先。
小屋の中に敷き詰められた藁の上に、一つ。
朝日を浴びて、温かい光を放つように、つるりとした薄茶色の**「初めての卵」**が、ちょこんと、しかし確かな存在感を放って、そこにあったのだ。
「やった……!やったぞぉぉぉ!」
僕たちは、一つの卵を囲んで、まるで国を救った英雄のように、何度もハイタッチを交わして喜んだ。それは、僕たちの郷が、初めて自分たちの手で「命」を繋ぎ、新たな恵みを生み出した、記念すべき瞬間だった。
この奇跡の卵をどう調理するか。郷の一大議題となったが、結論はすぐに出た。
「この奇跡の味を、最も純粋な形で味わうべきだ。俺に任せろ。究極の『目玉焼き』を作ってやる」
料理人ガラクの、真剣な眼差しだった。
彼は、ズボラが作った平たい石の調理板を聖なる祭壇のように丁寧に清め、オークからもらった猪の脂を薄く引く。そして、郷の全員が見守る中、神聖な儀式のように、そっと卵を割り落とした。
ジュウウウッ……と、心地よい音と共に、透明だった白身が、美しい乳白色へと変わっていく。中央の黄身は、まるで夕暮れ時の太陽のように、ぷるぷると、生命力に満ちて輝いていた。
仕上げに、僕たちが持ち帰った最高の塩を、ほんの少しだけ振りかける。
完成した究極の目玉焼きは、ガラクの神業のような手つきで、きっかり五等分され、僕たちの口へと運ばれた。
……言葉が、出なかった。
濃厚で、クリームのようにとろりとした黄身の甘み。ぷりぷりとした白身の食感。そして、それら全てを、最高の塩が、完璧な旨味へと昇華させている。
ハグレは、最初は警戒するように匂いを嗅いでいたが、一口食べると、サファイアのような瞳をこれ以上ないほど見開き、無言のまま、しかし凄まじい集中力で自分の分を平らげた。そして、ガラクの方をじっと見つめ、小さく「…くるる」と喉を鳴らした(おかわり、の意)。
その日の昼過ぎ、ドガたちが、猪肉や木材との交換のために、郷を訪れた。
彼らは、僕たちが作ったニワトリ小屋に感心しきりだった。そこへ、「これに、僕たちの郷の『英雄』が彫った、新しい食器だ」とズボラがオークたちに手渡すと、彼らはその美しい木工品に「おお……」と感嘆の声を漏らしていた。
そんな雑談の中、ドガが、ふと思い出したように言った。
「そういや、最近、別の場所から来た旅商人と話したんだが、面白い噂を耳にしたぜ」
「噂?」
「ああ。なんでも、昔この辺りに住んでいたっていう、ドワーフの生き残りがいるらしい。南の山奥で、一人、ひっそりと暮らしてるんだとよ」
ドガは、ニヤリと笑って、言った。
「なんでも、そのドワーフ……最高の酒を造る、伝説の職人なんだとか」
「ドワーフの……酒造家」
その言葉に、僕と、隣にいたガラクの目が、カッと輝いた。
最高の料理がある。最高の寝床もある。最高の仲間もいる。
だが、この郷にはまだ、一日の終わりに、仲間たちと語らいながら酌み-交わす、最高の「酒」がなかった。
僕たちの胸に、次なる仲間への、そして、郷がさらに豊かになる未来への、熱い期待が膨らんでいくのを感じた。




