第十一話 塩の採掘場と、賢い魔物 第2部『塩の結晶と、龍の知恵』
白い宝の山を前に、僕たちはすぐさま採掘作業に取り掛かった。
とはいえ、ここは巨大な魔物の巣のすぐそば。大きな音は立てられない。僕は、ドワーフの斧ではなく、追放時に父から投げ渡された、刃こぼれのした古い手斧を手に取った。
コン、コン、と、できるだけ音を殺しながら、岩塩の壁に手斧を打ち込む。硬い!見た目の美しさとは裏腹に、岩塩の結晶は、そこらの岩よりもずっと硬かった。額に汗を浮かべ、腕が痺れるほどの作業を続けて、ようやく僕は、赤子の頭ほどの大きさの塊を、いくつか壁から剥がすことに成功した。
だが、すぐに新たな問題が浮上する。
「……重い」
その岩塩の塊は、見た目以上にずっしりと重かった。ズボラが作ってくれた、あの頑丈な背負子でさえ、この塊を数個も入れれば、すぐに満杯になってしまうだろう。それでは、村一つを救うほどの量には、到底足りない。
目の前に無限の宝があるのに、それを持ち帰る術がない。僕は、悔しさに唇を噛んだ。
その時だった。僕の足元で、コハクが「きゅん?」と不思議そうに、岩塩の塊に鼻を近づけていた。彼は、その鉱石の塊に、畑の土と同じような、大地の気配を感じ取ったのかもしれない。
「あうー……」
コハクが、試しに、とでも言うように、岩塩の塊に向かって、ごく少量の【豊穣の息吹】をそっと吹きかけた。すると、驚くべきことが起こった。
岩塩の塊は、成長するどころか、まるで熟しすぎた果実のように、ほろり、ほろりと崩れ始めたのだ。石ころなどの不純物が分離し、後には、雪のように真っ白で、きめ細やかな、純度の高い塩の粉末だけが残った。
「コハク、すごいじゃないか!これなら、ずっと軽くて、たくさん運べる!」
これは大きな進歩だった。だが、それでもまだ、かさばるという問題は解決していない。
僕たちがコハクの新たな発見に喜んでいると、それまで静かに様子を窺っていたハグレが、おもむろにその塩の粉末の前に進み出た。彼女は、僕とコハクの顔を交互に見ると、何かを決意したように、粉末の上に、そっと【水の導き】の力を注ぎ始める。
きめ細やかな塩は、たちまち彼女が生み出した清らかな水に溶け、高濃度の「塩水」となって、地面の窪みに溜まっていった。
ハグレは、その塩水を、ぺろり、と一度だけ舐めた。そして、何かを確かめるように、少しだけ首を傾げる。
次の瞬間、彼女は自分でも驚くように、サファイアのような瞳を大きく見開いた。
彼女は、自分の体の中に、これまで気づかなかった、ある特殊な器官が存在することに、本能で気づいたのだ。ラクダが水を溜めるように、特殊な液体を、その身に宿すことができるという、龍族だけが持つ、古の能力の存在に。
仲間を助けたいという強い想いが、彼女の中に眠っていた、新たな可能性の扉を開いたのだ!
ハグレは、窪みに溜まった塩水を、一滴も残さず、ごくり、ごくりと飲み干していく。彼女の体が、淡い青色の光に包まれた。
「ハグレ、大丈夫かい!?体に無理はないかい!?」
僕が慌てて駆け寄ると、彼女は淡い光に包まれたまま、僕に向かって「ふしゅん(問題ない)」と、少しだけ得意げに鼻を鳴らした。
僕が岩塩を掘り出し、コハクがそれを精製し、そして、ハグレが液体化してその身に宿す。
僕たちの絆が、絶望的だと思われた問題を解決するための、最高の連携を生み出した瞬間だった。




