第十一話 塩の採掘場と、賢い魔物 第1部『ドワーフの水路と、眠る怪物』
村人たちからの温かい見送りを受け、僕とコハク、ハグレは、塩の採掘場があるという険しい峠へと足を踏み入れた。ユイちゃんを助けたお礼にと、村人たちが持たせてくれた、素朴だが心のこもった焼きパンを頬張りながら、僕たちは岩だらけの道を一歩一歩、着実に登っていく。
広大な平原とは打って変わり、ごつごつとした岩肌が剥き出しになった、荒涼とした景色が広がっていた。吹き抜ける風も、平原のそれよりずっと冷たく、鋭い。
「長老の地図によれば、確かこの辺りのはずなんだけど……」
僕は、羊皮紙に描かれた地図と、目の前の景色を何度も見比べる。そこには、「三つ子の岩を過ぎ、沢が岩に吸われる場所」と記されていた。
沢に沿ってさらに進むと、確かに、三つのよく似た形の巨岩がそびえ立っていた。そして、その先で、今まで僕たちの隣を流れていた小川が、ごぼごぼと音を立てて、巨大な岩壁の裂け目へと吸い込まれて消えている。
「あった!ここだ!」
僕たちは、その岩壁を覆う、分厚い苔と蔦を慎重に取り払った。すると、その奥から現れたのは、ドワーフ族特有の、直線と曲線を組み合わせた美しいデザインの、小さな石造りのアーチだった。遥か昔に忘れられた、秘密の入り口だ。
中からは、ごうごうと、絶えず水の流れる音が響き、ひんやりとした湿った空気が流れ出してきていた。
僕たちは、松明に火を灯すと、意を決して、その暗闇の中へと足を踏み入れた。
中は、大人が屈めばなんとか通れるほどの、狭い水路が続いていた。壁は常に濡れており、足元の水が、絶えず僕たちの足首を叩いていく。響き渡る水音が、方向感覚を曖昧にさせた。
しばらく進んだ、その時だった。
ズシン……。
腹の底に響くような、重い振動が、僕たちの体を揺さぶった。
コハクとハグレが、ぴたりと足を止め、僕の足に体をきつくすり寄せてくる。その小さな体も、恐怖に細かく震えていた。
ズシン……!ズゥゥゥン……。
今度は、もっとはっきりと聞こえた。それは、巨大な生き物の、地響きのような寝息。長老が言っていた魔物「ロックリザード」が、この分厚い岩盤の、すぐ上で眠っているのだ。
僕が息を呑んだ、その瞬間。
ゴゴゴゴゴ……と、頭上の天井が、寝息に合わせてビリビリと細かく震え、溜まっていた砂や小石が、ぱらぱらと僕たちの頭上に降り注いできた。
僕は、震える二匹の背中を、そっと撫でて落ち着かせた。あまりの恐怖とプレッシャーに、心臓が早鐘を打つ。だが、この水音こそが、僕たちの命綱だ。僕たちは、お互いの存在を確かめるように体を寄せ合い、息を殺し、一歩、また一歩と、暗闇の奥へと進んでいった。
永遠にも思えるほどの緊張の潛行を乗り越え、僕たちの目の前に、ようやく出口の光が見えてきた。
水路を抜けた先。そこに広がっていたのは、広大な、静寂に包まれた巨大な洞窟だった。
僕が掲げた松明の光が、壁に当たって、キラ、キラ、と乱反射する。それは、まるで洞窟の内部に、満点の星空が広がっているかのような、幻想的な光景だった。
壁一面が、まるで宝石のように、美しい岩塩の結晶で覆い尽くされている。
白く、あるいは淡い桃色に輝く、白い宝の山。
(やった……!ガラク、ズボラ、みんな……!これでまた、美味しいものが食べられるよ……!)
僕たちは、ついに目的地、塩の採掘場へとたどり着いたのだった。




