第六話 初めての家具と、それぞれの寝床 第3部『"究極の素材"と、ふかふかの寝床』
ベッドフレームは完成した。だが、僕たちの計画には、まだ最も重要なピースが足りていなかった。最高の寝心地を実現するための、「詰め物の寝床」だ。
翌日から、僕たちは郷の総出で、寝床の「詰め物」集めを開始した。
僕が鳥の巣から落ちた清潔な羽根を、ガラクは薬草の知識を活かして、肌触りが良く、虫除け効果のある香りの良い枯れ草を。コハクとハグレは、競争するように、ふわふわの苔を大量に見つけてきてくれた。オークたちも面白がって手伝ってくれ、洞窟の一角は、あっという間に詰め物の山で埋め尽くされた。
だが、僕はその山を前に、少しだけ首を捻っていた。
(悪くない……だけど、最高のベッドには、何かが足りない……!僕たちの郷だけの、特別な何かが)
僕が腕を組んで悩んでいると、足元でコハクが「遊んでよ!」とばかりに、もふもふの体をすり寄せてきた。僕は無意識に、その燃えるような赤い背中をわしゃわしゃと撫でてやる。その瞬間、僕の手に、信じられないほど柔らかく、そして温かい感触が残った。
見ると、僕の手には、コハクの抜け毛がごっそりと付いている。まるで、最高級のシルクを束ねたかのような、極上の手触り。
その瞬間、僕の脳裏に天啓が閃く。
「(これだ……!最高の詰め物は、これしかない!)」
僕は早速、ズボラに頼んで、樫の木の切れ端から即席の「ブラシ」を作ってもらった。彼の職人技が光る、毛を傷つけずに、優しく梳かすことができる逸品だ。
まず、コハクで試してみると……これが、たまらない!ブラシで梳かされる経験したことのない心地よさに、コハクは「きゅんきゅん!」と恍惚の声をあげ、ゴロンと仰向けになってお腹まで見せる始末。彼の体からは、まるで綿菓子のように、燃えるような赤い毛――僕が「ルビー・フロス」と名付けたそれが、面白いように収穫できた。
問題は、ハグレだ。
ブラシを持って近づくと、案の定「ふしゅー!」と全身の毛を逆立てて威嚇し、さっと身をかわしてしまう。
だが、僕は諦めない。隣でコハクがうっとりとろけている姿を見せつけたり、「大丈夫だよ、ハグレ。綺麗になるだけだから。もっと、ふわふわになるよ」と、優しく声をかけ続けたりした。
僕たちの根気強い説得に、ハグレはついに根負けしたようだった。彼女は、おずおずと僕の前に座ると、覚悟を決めたように、ぎゅっと目を瞑った。
僕が、そっと彼女の背中にブラシを当てる。最初は体を強張らせていたものの、やがてその瞳が、とろりと蕩けていく。最後には「……くるる……」と、今まで僕が聞いたこともないような、甘えた猫のような喉の音を鳴らし始めた。彼女の体からは、氷の結晶のようにキラキラした青い毛――「サファイア・フロス」が、ふわり、ふわりと舞い落ちた。
こうして集められた、最高級の「ドラゴン・フロス」を、丈夫な葉でこしらえた袋にたっぷりと詰め込み、僕たちの郷だけの、究極の枕と寝床が完成した。
それは、ただふかふかなだけではない。コハクのルビー・フロスからはじんわりとした温かさが、ハグレのサファイア・フロスからはほんのりとした涼感が伝わってくる、まるで魔法のような寝具だった。
その夜、郷の全員が、自分たちの手で作り上げた究極のベッドで、初めて眠りについた。
お互いの温もり(抜け毛)に包まれて、同じ夢を見る。これ以上ないほどの「家族」の姿が、そこにはあった。
まだ壁も完成していない僕たちの城に、また一つ、温かくて賑やかな思い出が刻まれた。
――こうして、僕たちの郷の毎日は、少しずつ、だけど確かに、世界で一番幸せな場所へと変わっていく。
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