第六話 初めての家具と、それぞれの寝床 第2部『職人たちの協奏曲』
ベッド作りの計画が始動した翌日から、僕たちの郷には、これまでとは違う、新たな音が生まれ始めた。
まず、僕が振るうドワーフの斧が、木材を正確な長さに切り出す、ズドン、という低く力強い音。次に、それを受け取ったズボラが、鑿と木槌を使い、木材に精密な加工を施す、コツ、コツ、という軽快で知的な音。
僕が切り出した木材を、ズボラが受け取る。彼はまず、その木の表面を愛おしむように撫で、次に、木の目の流れを真剣な眼差しで読み解く。そして、僕が木の皮に描いた設計図と、現物の木材を何度も見比べ、完璧な角度と深さで、吸い付くような精度の「ほぞ」や「組木」といった、釘を使わない高度な加工を施していくのだ。
僕の持つ前世の知識と、この世界で培われた斧術。そして、ズボラの中に眠っていた、天性の職人としての才能。二人の技術が合わさる時、ただの木材は、美しい家具の一部へと姿を変えていった。その無駄のない連携は、まるで心地よい協奏曲のようだった。
作業を始めて二日目の昼過ぎ。森の方から、陽気な笑い声と共に、地面を揺るがすような足音が近づいてきた。
「よぉ!弟!ちゃんとやってるか!」
現れたのは、ドガが数人の屈強なオークを連れた、頼もしい援軍だった。彼らは、巨大な丸太を軽々と肩に担いでいる。
「こいつは、俺たちの集落の族長の家を建てる時にしか使わねぇ、特別な樫の木だ。弟が世話になってる礼だ、好きに使ってくれ」
それは、僕たちが材料にしていた木材とは比べ物にならないほど、木目が詰まった最高級の素材だった。オークたちは、それをプレゼントしてくれただけでなく、「おうよ、力仕事なら任せとけ!」と、資材運びを快く手伝ってくれる。彼らの協力のおかげで、僕たちの作業効率は飛躍的に向上した。
人間と、リザードマンと、オークのベッドフレームは、順調に組み上がっていく。だが、ここで一つの問題が持ち上がった。
「コハクとハグレの寝床は、どうしようか……」
その時、ズボラが作業の手を止め、昼寝をしている二匹の姿をじっと観察し始めた。
(コハクくんは、割と無防備に、大の字で寝ることもある。でも、ハグレちゃんは、いつも体を丸めて、自分の身を守るように眠るんだな……)
やがて、彼は一枚の木の皮を拾うと、木炭でさらさらと何かを描き始めた。
「ズボラくん、それは?」
「ハグレちゃんは、こうやって体を丸めて眠るのが好きみたいだ。だから、平らな台より、こういう……お椀のような形で、体を優しく包み込むような寝床の方が、きっと落ち着く」
彼が描いたのは、緩やかなカーブを描く、低い円形の、まるで鳥の巣のようなベッドだった。
仲間一人一人のことを想い、その仲間のためだけに、世界で一つのデザインを生み出す。僕は、彼の職人としての成長に、胸が熱くなるのを感じた。
その日の夕方。僕たちの手によって、記念すべき最初のベッドが完成した。依頼主である、ガラクのベッドだ。
ズボラが最後の組木をはめ込むと、寸分の狂いもなく組み上がったフレームが、ずしりと大地に根を下ろす。表面は滑らかに磨き上げられ、頑丈な樫の木の脚が、どっしりとその体を支えていた。
「さあ、ガラク。寝てみてくれ」
「お、おう……」
ガラクは、恐る恐る、完成したばかりのベッドフレームに腰を下ろした。そして、ゆっくりとその上に横たわる。
一瞬の静寂の後、彼の大きな瞳が、信じられないものを見るかのように、大きく見開かれた。
「こ、腰が……楽だ……!浮いてるみてぇだ……!て、天国だ……!」
その声は、歓喜に震えていた。自分たちの手で、仲間の悩みを解決し、「快適さ」という幸せを生み出した。その事実は、僕たちに、何物にも代えがたい達成感を与えてくれたのだった。




