第五話 開花する才能と、守り神の木像 第3部『宴と、新たな仲間』
その夜、僕たちの郷には、二つの種族の笑い声が響き渡っていた。
オークたちが仕留めた巨大な猪が、ガラクの手によって豪快な丸焼きとなり、焚き火の上で香ばしい匂いをあたりに振りまいている。大鍋では、僕たちの畑で採れた野菜と猪肉を煮込んだ、滋味深いシチューが湯気を立てていた。
「うめぇ!なんだこりゃ、うめぇぞ!」
「ガラク殿、おかわりを頼む!」
オークたちは、生まれて初めて味わう「本物の料理」に、野太い歓声をあげていた。ドガも、戦場での武勇伝をガラクに語りながら、子供のようにはしゃいでいる。コハクはオークたちの足元を駆け回り、おこぼれをもらっては尻尾を振り、ハグレも、少し離れた場所からではあるが、ズボラがそっと差し出した猪肉の串焼きを、小さな口で味わっていた。
ズボラは、そんな仲間たちの輪の中心で、英雄として少し照れくさそうに、しかし誇らしげに胸を張っている。かつて彼を「ガラクタ」と蔑んだ者たちが、今は尊敬と感謝の眼差しで彼を見つめている。その光景が、僕には何よりも嬉しかった。
宴が最高潮に達した、その時だった。
森の闇を切り裂くように、一人のオークの斥候が、息を切らしながら駆け込んできた。その必死の形相に、誰もが息を呑む。
「ドガ様!ご報告します!」
斥候が叫んだ。
「たった今、族長の奥様の熱が引きました!なんでも、守り神の木像が集落に運び込まれたその瞬間、苦しげだった呼吸が、穏やかな寝息に変わったと……!」
一瞬の静寂の後、森を揺るがすほどの大歓声が爆発した。
ドガは天を仰いで雄叫びをあげると、ズボラを軽々と肩に担ぎ上げた。「やったな、ズボラ!お前のおかげだ!」
奇跡を成し遂げた英雄は、仲間たちの手で何度も、何度も、夜空高く胴上げされた。
翌朝。祝宴の賑わいが嘘のように、静かで穏やかな空気が流れていた。
オークたちは、故郷へと帰る準備を進めている。あの守り神の木像は、傷一つ付かぬよう、何重にも柔らかな布で包まれ、屈強な戦士たちによって大切に担がれていた。
出発の時、ドガが僕とズボラの前に立った。
「ズボラ、お前も一緒に帰るぞ。お前はもうガラクタなんかじゃねぇ。一族初の『偉大なる細工師』様だ。みんな、お前を待ってる」
その言葉に、オークたちも力強く頷く。
英雄として、故郷に凱旋する。それは、ズボラにとって、これ以上ない名誉であるはずだった。
彼は、兄の顔と、僕たちの顔を、交互に見つめた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「兄貴、ありがとう。でも……俺、ここに残るよ」
「なっ……なぜだ!」
ズボラは、はにかみながら、だけど真っ直ぐな瞳で答えた。
「だって、ここは……俺みたいなガラクタが、初めて『宝物だ』って言ってもらえた場所だから。俺の始まりの場所なんだ」
彼は続ける。
「でも、兄貴。いつでも言ってくれ。一族のために、最高の木像を、いつでも彫ってやる。ここから、通うからさ」
その言葉に、ドガは一瞬目を見開いたが、やがて全てを理解したように、力強く、そして優しく頷いた。
「……そうか。分かった。達者でな、ズボラ。俺の、誇れる弟よ」
二人のオークの拳が、ゴツン、と静かに合わされる。
オークたちは、また会うことを約束し、森の奥へと帰っていった。
こうして、僕たちの『ガラクタの郷』に、誇り高き細工師という、三人目の仲間が正式に加わった。
まだ壁も完成していない僕たちの城が、また少し、賑やかになった。
――こうして、僕たちの郷の毎日は、少しずつ、だけど確かに、世界で一番幸せな場所へと変わっていく。
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