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第8話:散策の街、仲間の街

三日間の激務を終えた加賀谷零に与えられた、つかの間の休日。

文官たちとともに歩く城下町で、彼は“国家”の輪郭を少しずつ実感していく──。

「おい、そっちの団子屋、もう開いてるぞ!」


朝の陽射しが差し込む城下町。

食べ歩きの先頭を切ったのは、元軍属の文官バルロスだった。

そのがっしりした体躯に不釣り合いなほど小さな串団子を大切そうに持ち、かぶりつく。


「うまい! やっぱ疲れた後は甘味だな」


「……口に蜜がついてますよ、バルロスさん」 と、眼鏡を押し上げて注意するカリナ。


エルネスはというと、視線をきょろきょろさせながら、町並みをノートに書き留めていた。 「今度、王都の都市整理計画を作るときの参考にしようと思って……。この通りの並び、歩きやすくて好きです」


零はそんな三人の様子を見ながら、少し遅れて歩いていた。


「みんな、ずっと休んでなかったからな。今日はちゃんと労わらないと」


そんな彼に、グレイが静かに声をかける。

「まさか本当に同行なさるとは。珍しいですね、あなたが“休む”なんて」


「こういうのも必要だって、最近ようやく分かってきたんだ」



「おやっさん、焼きたてもう一本!」


バルロスはすでに二本目の団子を手にしていた。

彼の元軍人らしからぬ甘党っぷりに、カリナがくすりと笑う。


「ほんと、よく食べますね」


「戦場じゃ甘いもんなんて口にできなかったからなあ。平和ってのはこういうもんだって、実感するんだよ」


「……平和、か」

と、エルネスがぽつりと呟いた。


「この国が、本当に安定したら──自分は、学校を建てたいんです」


「学校?」

と、零が聞き返す。


「はい。識字率の低さが、財政管理の不透明さにもつながってます。だから、基礎教育を広めたい」


「それで、ノートに町並みを書き込んでいたのか」


カリナが笑う。

「エルネスは真面目ですから。私は……そうですね。商業の自由化に関わってみたい。女性がもっと自由に働けるような制度づくりを」


「バルロスは?」


「俺は……そりゃ、国が安定したら子どもたちに戦争を教えたくないな。だからこそ、ちゃんと防衛体制を作っておきたい」


「三人とも立派だな。……じゃあ、俺はどうだ?」


「王様になるとか言い出さないでくださいよ?」

と、エルネスが冗談を言い、皆が笑う。


「冗談じゃないさ」

と、零は小さく返した。


「でも、そのためにはまずこの国を“見える形”に整えていかないと。

幻想じゃなく、実数で。資産と負債、収入と支出──全部を見えるようにして」


グレイが頷いた。

「……貴殿が持ち込んだ“計数の文化”が、我々の視界を変えつつあります」



夕方、皆で小さな茶屋に腰を下ろした。


「この町も、近々再編の対象になるだろう」

と零が言う。


「でも今日は、ただの一市民として、甘い物を楽しんでおこうか」


そう言って差し出された温かい団子に、文官たちはそれぞれ笑みを浮かべた。


「明日から、また頑張れそうですね」


エルネスの一言に、全員がうなずいた。


その日は、ゼルタリア王国の再建に向けた、

小さな──けれど確かな絆が、生まれた一日だった。



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