第7話:女王と狼たち
王宮・戦略会議室。
三日間に及ぶ財務調査の報告が、
ついに女王・リュシアのもとへ提出された。
帳簿には、正確な税収・支出、設備状況、
未計上の債務とリース契約、そして国家の財政寿命までもが記されていた。
それは、虚飾を削ぎ落とした“裸の国家”の姿だった。
*
「……三年、ですか」
報告書を読み終えたリュシアが、静かに言った。
その声には、怒りも、驚きもなかった。
ただ──現実を受け入れる覚悟があった。
「間違いありません。現時点の収益力と債務、
リース契約と魔力供給契約まで含めて分析しました」
加賀谷零が、冷静に答える。
その横で、グレイやエルネス、カリナたち文官は机に突っ伏していた。
目の下にクマをつくり、筆記具を握ったまま眠っている者もいる。
三日三晩、ほぼ徹夜で報告を仕上げたのだ。
「……あなたたちが、ここまでやるとは」
リュシアの声に、グレイが顔を上げる。
「……女王陛下。我々が何年もかけて見ようとしなかった真実を、
この若者は、たった三日で暴いたのです」
「彼の指示は、時に容赦がありませんでしたが……」
「でも、同じ分だけ、私たちの力を信じてくれた」
カリナとエルネスが、それぞれ呟く。
リュシアは静かに頷き、報告書を閉じた。
「──では、加賀谷零」
「あなたに、この国を救う資格があると、私は認めます」
部屋が、静まり返る。
その宣言は、女王としての“信任”だった。
リュシアは視線を向けた。
重臣、そして将軍・リオネルへ。
「諸君。異邦人に、我が国の財務を預ける覚悟はあるか?」
リオネルは長身の壮年男性。
銀髪を後ろで結び、軍服のような礼装に身を包んでいる。
顔立ちは鋭いが、無愛想というよりは寡黙な理性派といった印象だった。
「……あれだけの資料を三日で作った者に、
『信頼できない』とは、逆に失礼でしょう」
「それに──」
「このまま何もせず、国が潰れるよりはマシだ」
リオネルが肩をすくめて言うと、場に緊張が溶けたように笑いが漏れた。
リュシアは改めて、零に向き直る。
「加賀谷零。あなたに、何を望みますか?」
静寂。
零はほんの少し考えてから、口を開いた。
「三つだけ、お願いします」
「一つ。財務分析と執行のため、王室直属の“財務顧問”としての権限をください」
「二つ。“特命分析室”を設置し、優秀な文官・書記官を数名、私の配下につけてほしい」
「三つ──これは私的な願いですが……」
彼は、ふと視線を外して微笑んだ。
「食事を、もう少しマシなものにしてください。あと、風呂付きの寝所が欲しい」
「この三日、馬小屋の裏みたいな部屋で寝てたもので」
どっと笑いが起きた。
「……そこまでの功労者に、それは確かに酷かもしれませんね」
リュシアも微笑む。
「いいでしょう。すべて、叶えましょう」
*
その日──
加賀谷零は、王国史上初の“異邦財務顧問”として任命される。
国を救うために召喚された男。
彼の分析と思考が、王国の未来を変えていく。
だがその裏にある“俗っぽい動機”──
(別に、正義感とかじゃない。
ただ……この世界でくらい、勝ちきってみたいだけだ)
(前の世界じゃ、勝負に負けた。
信頼を、守れなかった。
なら今度こそ──)
彼は、王国の空を見上げた。
(誰にも奪えない構造を、俺の手で作ってやる)