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第7話:女王と狼たち

王宮・戦略会議室。


三日間に及ぶ財務調査の報告が、

ついに女王・リュシアのもとへ提出された。


帳簿には、正確な税収・支出、設備状況、

未計上の債務とリース契約、そして国家の財政寿命までもが記されていた。


それは、虚飾を削ぎ落とした“裸の国家”の姿だった。



「……三年、ですか」


報告書を読み終えたリュシアが、静かに言った。

その声には、怒りも、驚きもなかった。


ただ──現実を受け入れる覚悟があった。


「間違いありません。現時点の収益力と債務、

リース契約と魔力供給契約まで含めて分析しました」


加賀谷零が、冷静に答える。


その横で、グレイやエルネス、カリナたち文官は机に突っ伏していた。

目の下にクマをつくり、筆記具を握ったまま眠っている者もいる。


三日三晩、ほぼ徹夜で報告を仕上げたのだ。


「……あなたたちが、ここまでやるとは」


リュシアの声に、グレイが顔を上げる。


「……女王陛下。我々が何年もかけて見ようとしなかった真実を、

この若者は、たった三日で暴いたのです」


「彼の指示は、時に容赦がありませんでしたが……」


「でも、同じ分だけ、私たちの力を信じてくれた」


カリナとエルネスが、それぞれ呟く。


リュシアは静かに頷き、報告書を閉じた。


「──では、加賀谷零」


「あなたに、この国を救う資格があると、私は認めます」


部屋が、静まり返る。

その宣言は、女王としての“信任”だった。


リュシアは視線を向けた。

重臣、そして将軍・リオネルへ。


「諸君。異邦人に、我が国の財務を預ける覚悟はあるか?」


リオネルは長身の壮年男性。

銀髪を後ろで結び、軍服のような礼装に身を包んでいる。

顔立ちは鋭いが、無愛想というよりは寡黙な理性派といった印象だった。


「……あれだけの資料を三日で作った者に、

『信頼できない』とは、逆に失礼でしょう」


「それに──」


「このまま何もせず、国が潰れるよりはマシだ」


リオネルが肩をすくめて言うと、場に緊張が溶けたように笑いが漏れた。


リュシアは改めて、零に向き直る。


「加賀谷零。あなたに、何を望みますか?」


静寂。


零はほんの少し考えてから、口を開いた。


「三つだけ、お願いします」


「一つ。財務分析と執行のため、王室直属の“財務顧問”としての権限をください」


「二つ。“特命分析室”を設置し、優秀な文官・書記官を数名、私の配下につけてほしい」


「三つ──これは私的な願いですが……」


彼は、ふと視線を外して微笑んだ。


「食事を、もう少しマシなものにしてください。あと、風呂付きの寝所が欲しい」


「この三日、馬小屋の裏みたいな部屋で寝てたもので」


どっと笑いが起きた。


「……そこまでの功労者に、それは確かに酷かもしれませんね」


リュシアも微笑む。


「いいでしょう。すべて、叶えましょう」



その日──

加賀谷零は、王国史上初の“異邦財務顧問”として任命される。


国を救うために召喚された男。

彼の分析と思考が、王国の未来を変えていく。


だがその裏にある“俗っぽい動機”──


(別に、正義感とかじゃない。

ただ……この世界でくらい、勝ちきってみたいだけだ)


(前の世界じゃ、勝負に負けた。

信頼を、守れなかった。

なら今度こそ──)


彼は、王国の空を見上げた。


(誰にも奪えない構造を、俺の手で作ってやる)

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