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第4話:収益性という名の幻影

「──この村の人口は、いま何人だ?」


加賀谷零は、書き上がった帳簿の写しを見ながら、

近くに控えていた文官に尋ねた。


応じたのは、真面目そうな眼鏡の青年──エルネスだった。

「はい、南峡域のタルベ村は……五百四十七人と記録されております」


「そのうち納税義務を果たしているのは?」


「ええと……四百八十五人です」


「ふむ」


零は、別の資料──人口統計の推移グラフをめくった。


「おかしいな。この村、三年前には人口七百人を超えていたはずだ」


「……えっ」


「それが今、五百四十七? 

出生率にしても死亡率にしても、自然減では説明がつかない。

──つまり、どこかで“記録が改ざん”されている可能性が高い」


静かな断言に、室内の空気が変わった。


「収益性分析、やり直そう」


零はペンを走らせながら言う。


「一過性の徴税や特殊事情を省いて、“正常収益力”を見なきゃ意味がない。

じゃないと、この国が本当に“生きてる”か判断できない」



「──まさか、納税データ自体が歪んでいたとはな」


部屋の片隅で、財務統制官グレイが小さく呟いた。


「……気づいてたんじゃないのか?」


零の問いに、彼は否定もしなければ、肯定もしなかった。


「財務官として、黙認せざるを得ない現実もある」


「でも今は違う。

この国を立て直すには、まず“嘘を炙り出す”ところからだ」



王都だけでなく、周辺の村の徴税データも洗い直され、

書記官たちは悲鳴を上げながら徹夜でデータの再集計を進めていく。


「村長が“水増し報告”をしていた事例が見つかりました!」

──冷静に指摘するのは、女性書記官のカリナ。


「こっちは逆だ、徴税記録が“少なめに”記されてます!」

──豪快に声を張り上げたのは、元軍属の書記バルロスだ。


「“口約束で徴税”した件、記録が残っていません!」

──少し疲れ気味のエルネスが、帳簿を両手で掲げながら訴える。


混乱と発見の連続。


それでも零は、淡々と数字を拾い、並べ、見つめる。


(国の価値は“幻想”ではなく、“継続性”で測るべきだ)

(この世界にその視点がなかったなら──俺が提示すればいい)

(……そう言い切れるようになったのは、

あの会社を、部下を、仲間を失ってからかもしれない)



そして三日目の朝。


加賀谷零は、一枚の報告書をグレイに手渡した。


「正常収益力ベースでの、推定税収」


グレイはそれに目を通すと、眉をひそめた。


「……予想より、三割も低いな」


「今までの収益報告が“飾られていた”証拠だ」


「つまり──この国は、見た目以上に“貧しい”ということか」


「そういうこと」


その報告書には、地名別・年次別に“純粋な税収”が整理されていた。

徴収担当官の癒着リスト、未回収の税額、

口約束の領収処理などの注記がぎっしりと書かれていた。


グレイが小さく息を吐く。


「……これは、魔法以上の“国家再生の呪文”だな」


「数字は嘘をつかない。

でも、人間は数字を“加工”する。

──なら、加工されたものは正せばいい」


その日、王国の帳簿は、

初めて“現実”の姿を取り戻した。



最初に洗うのは、この国の“収入”。

王国に残された税収データは、果たして──真実か、虚飾か。

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