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第3話:この国の“数字”を、洗い出す

リュシア女王が静かに頷くと、背後の扉が控えめに開かれた。

銀糸の制服をまとった男性が、無言で進み出る。


黒髪、鋭利な横顔。

無表情で歩くその姿から、冷たい気配がにじみ出ていた。


「──紹介するわ。

ゼルタリア王国・財務統制官、グレイ=ミュレイン」


「召喚者……加賀谷零かがやれいだ」


握手はない。ただ互いに名乗るだけ。

視線が交差し、すぐに分析と観察の応酬が始まる。


「リュシア陛下より命を受けました。

あなたを財務省にお連れします。現状をご覧ください」


無機質な声。

だが、それは忠誠ではなく“職務”としての対応だった。


零はすぐに気づく。


(彼も“感情より構造”を優先するタイプか。だが──)


(感情がゼロなら、最初から反発も生まれない)



向かったのは、王城の北棟にある“財務省”。

だが──零が最初に受けた印象は、言葉を失うほどのものだった。


古びた扉、乱雑な書類、床に落ちた帳簿の山。

壁の時計は止まり、机の上の蝋燭だけがぼんやりと空間を照らしていた。


書記官たちは疲れ果てた顔でうずくまり、誰もこちらを見ない。


「……これは酷いな」


零は思わず口にした。


「ここが、我が国の“会計の中枢”です」


グレイの声には皮肉も絶望もなかった。

ただ事実を淡々と述べる──まるで壊れた会計ソフトのように。


「予想以上だ。……でも、やるしかない」


零は足元に散乱した帳簿を一瞥し、ペンを走らせる。


「三日で、財務デューデリジェンスをかける。

この国の“数字”を洗い出すには、それしか方法がない」


「“デューデリ”……?」


「企業を買収する前に、“本当に価値があるか”を見極める調査。

国家再建も同じだ。まず、今の状態を把握する」


紙に書かれた五つの項目を指差す。


■ 財務デューデリジェンス:分析対象一覧


1.【収益性分析】

 税収の推移、恒常的収益の算出。

 例外的な徴税や一過性イベントは除外。


2.【運転資本分析】

 未回収の税、兵站の滞り、保管されていない物資──

 この国の日常を回す資本のバランス。


3.【設備投資分析】

 過去の都市開発、未完の工事。

 必要投資の遅れやサボタージュの洗い出し。


4.【ネットデット分析】

 現金と借金の差。

 年金支払、軍の未払金、隠れた負債含む。


5.【簿外債務・偶発債務】

 帳簿に載っていない“爆弾”──

 王族の個人保証、訴訟、借用書の存在確認。


「三日で、これを全て──?」


書記官の一人が口を開き、絶句する。


「全部じゃなくていい。

“判断に足る情報”が得られれば、それで動ける。

企業再建も国家運営も、“不完全な情報”の中で意思決定するのが当たり前だ」


グレイが沈黙を破る。


「……その進め方、共感できる。

だが、専門官も記録も足りない。手分けが必要だ」


「もちろん。

俺がやるのは指針の提示と統括。

具体的な資料収集や分析は──君の知る“優秀な人材”に任せたい」


「信頼はしないが、合理的ではあるな。紹介しよう」



その後、零は三人の文官と顔を合わせた。

それぞれ古文書、都市整備、軍事会計を担当する生き残りの“知の番人”たち。


その顔ぶれに、グレイが小さく呟く。


「──ゼルタリアの心臓を救えるかどうかは、今ここに集まった人間で決まる」


零は頷いた。


「最初の判断は、俺がやる。

だが“数字”は、皆が知っていて初めて力になる」


彼の目が鋭く光った。


「──さあ、国家監査を始めよう」



本格的に国家の“財務監査”が始まりました。

次回は、それぞれの分析フェーズに踏み込み、

数字に宿る“真実”と“歪み”が暴かれます。


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