第2話:企業再建は、棚卸から始まる
加賀谷零、異世界に降り立ちました。
剣も魔法もない男の「最初の一手」です。
「……っ、眩しいな」
光が弾け、視界が戻る。
そこに広がっていたのは、東京でも会見場でもない、石造りの空間だった。
天井は高く、空気が乾いている。
埃っぽい香りと、遠くから聞こえる兵士の掛け声。
そして、足元の床の冷たさが、現実を突きつけてくる。
加賀谷零は、ゆっくりと呼吸を整えた。
(異世界……召喚ってやつか)
スーツ姿のまま。靴も時計も残っている。
明らかに“身体ごと”転移した感覚だ。
背後からざわめきが聞こえた。
「成功だ……本当に現れた……」
「異邦の“知者”だ……!」
聞こえる言葉が日本語として理解できていることに、一瞬の違和感。
(……これは通訳魔法か。意味だけが脳に流れ込んでくる)
目の前には、古びた玉座の間。
床はひび割れ、壁のタペストリーは色褪せ、兵士たちの鎧は手入れが雑だ。
(金がない。人も疲れている。国家機能がほぼ止まってるな)
彼の視線が、玉座の前に立つ少女に向いた。
銀に近い髪。凛とした青い瞳。年若いが、目だけが“大人”だった。
「あなたが……召喚に応じた異邦の“知者”?」
「そうだと仮定して、あなたは?」
「ゼルタリア王国第十二代女王。リュシア=ヴィアルネ」
「王女、じゃなくて女王……ってことは、もう逃げ道はないわけだ」
彼女は、頷いた。
「国が、壊れかけています。
民も、経済も、軍も。私はあなたに、この国の再建を託したい」
加賀谷零は、ようやく“今の自分の役割”を理解した。
(救世主じゃない。俺は、“再建屋”として呼ばれた)
「まずは現状を知りたい。
財政記録、税制度、軍備、人口分布、土地所有記録……。
揃っていないなら、自分の足で調べます」
「あなた……何者なの?」
「一度、会社を失った男です。構造を甘く見て、すべてを奪われた」
(同じ失敗は繰り返さない。今度こそ“守れる構造”を作る)
「まずは棚卸です。
企業でも国家でも、再建の初手は“資産の把握”から始める」
重臣たちがざわめき始めた。
「な、何を言っている……!」
「異邦の者に、国の仕組みがわかるはずが──」
「──黙れ」
その声を遮ったのは、女王リュシアだった。
「私は、信じる。
あなたの目を見て、そう決めた」
零は目を細め、微かに頷いた。
「三日ください。この国の“資産”と“負債”を、洗い出してみせます」
「三日で……?」
「時間をかければ精度は増す。
でも遅ければ、それだけ“死ぬ国民”が増える。
国家経営は、スピードも精度も両立しなきゃいけないんでね」
そう言ったとき、
この異世界に──“企業思考”が導入された。
その瞬間から、国の命運は回り始めていた。
M&A主人公、まずは異世界で「現状分析」からスタートです。
次回は、冷静参謀グレイが登場します。
数字で国を動かす男の第一歩、お楽しみいただけましたらぜひブクマ&感想を!