第六十八の魔法「密会と決心」
一日遅れでの更新になってしまいましたのでいつもより少し多めに
書きました。
作業は夕暮れ時まで続いた。授業そっちのけで行っているのには理由があった。先日の合同実演のせいで「メギストン」が使い物にならないためだった。この時期になると、二年・三年生は「メギストン」での授業が多くなってくる。しかし、使い物にならない今、カリキュラムの変更をすると後々の予定が狂ってしまう。そのため、現在は授業を中止し、このユートピア祭の準備に割り振られている。
「さぁて、今日はここまでにしましょう」
エリエルの号令で本日の作業は終了した。
「あと、一応ウェイトレス役と調理役してもらう人は張り紙に書いておいたから確認しておいてね」
生徒がその張り紙に群がる。クロも一応、自分の役割ぐらい知っておきたかった。
名前を見つける。その役は「調理役」だった。
「よかった……」
正直、安心した。ウェイトレス役などになったら、どうなっていたことか……。軽く、肩を数回叩かれる。
「まぁ、なんで男の格好しているのかとか、今更聞かないし。なんか事情があるからしてるんでしょ?」
「え……あぁ」
「なら、無理にウェイトレス役してもらわなくても大丈夫よ。適材適所ってやつね」
「その、アリガトな」
「気にしない。気にしない」
エリエルの気遣いだろうか。うれしかった。
夜、クロは風呂に入り終わり髪を乾かしているところだった。不意に扉の開く音がした。洗面台から部屋へと戻る。ローザの姿が見当たらない。こんな夜遅くにどこ行ったんだ?と正直に思うが、特に気に留める必要もなさそうだったので、そのままにしておくことにした。
ローザはある人物と出会っていた。その人物とは初対面であったが、ある事情で協力することになった。笑顔の似合う青年。ローザは青年にある一枚の紙を渡す。
「それが、制服のデザイン。あと、寸法がちょっとだけ間違ってから、あっちは直しておいたよ」
「そう、ありがとう」
「いつごろできる?」
「五日もあれば出来るかな。こう見えても裁縫は得意なんだ」
「うん、あの出来を見ればわかるよ」
「じゃあね」
「うん、本番が楽しみね」
「そうだね」
そう言って青年はまた笑顔を見せてくれた。
再び、クロはケースとにらめっこを始めた。まだ、中身を確認していない。
開ける勇気が出てこない。だけど、ケーニッ人の約束だから、仕方がないと、自分に言い聞かせるようにケースを開けることにした。
「やっぱり」
出てきたのは想像していたものと一緒だった。女子用の制服。綺麗にたたまれており、新品特有の匂いがした。制服を取り出すと、一枚の紙がケースの底に貼ってあった。何かが書かれていて、確認するために紙をはがす。
「クロへ。丹精込めて作りました。早くこの制服を着たクロの姿が見てみたい。一日でも早く着てくれて、僕に見せてくれる日を楽しみにしているよ。ケーニッヒより」
丹精込めて作りました。その文面が気になって仕方がない。もしかして、支給される制服を見て、布地から作ったということだろうか。だとしたら、なおさら、着なければ申し訳ない。ただ、抵抗はある。
サイズを合わせるため、鏡の前に立つ。ぴったりだった。ただ、似合うかは分からない。
ローザはまだ帰ってきていない。念のために一度、部屋の外を確かめる。ドアを開けて左右を確認する。長い廊下にローザの姿は見えない。
ちょっとだけ……着てみて確認してみようかな……。クロは何かを決心したかのように、服を脱ぎ始める。
もう少しで七十話になりそうなのですが、話があまり進んでいない
かもしれませんね。
出来るだけ多く描きためて更新したいと思いますんで
よろしくお願いします