第六十四の魔法「クロの答え」
しばし、沈黙が続く。お互いどう切り出していいのか解らないでいた。
「許嫁だったんだね。あの娘と」
「あぁ」
少しの沈黙。
「君に、謝らなければいけない」
今度はレクスから話し始めた。
「正直、まだ気持ちの整理はついていない。君に対しても、メルキュールに対しても……」
「だったら、俺が言ってやろうか?」
レクスの言葉を最後まで聞かず、クロは話し始めた。
「俺は、アンタにそんな感情は持っていない。多分これからも変わらないと思う。他に違う人がいるからとかじゃなくて、初めて会った時からずっと」
「そう、か」
「だから、アンタはアンタを大切に想っている人を想えばいい」
「そうか……それが、聞きたかった……ありがとう」
レクスもまた、夜の廊下に消えていった。
静かに、扉が開いた。自分のいた部屋から。
「本当に、よかったの?あれで。アンタだって……」
「いいんだ。これでよかったんだ」
サフィラの言いたいことは解っていた。だけど、誰かが苦しむのは嫌だった。そうしなければ自分の幸せは手に入らないと知っていても。もう誰も傷つけたくないから。
ケーニッヒは廊下を歩いていた。騎士学科の宿舎へと続く道を。目の前に一人の男が姿を現す。ゼロだった。
「よぅ。久しぶり」
「ゼロ、懐かしい顔が現れたものだね」
「一応、年上なんだから敬語使えよ」
「嫌だよ。アンタは兄貴みたいなもんだから」
「良い様に言いやがって」
「それで、何か用?疲れて眠いんだけど」
「そうつれないこと言うなよ。一人気になった奴がいてな、今年の新入生だ」
「種族は?」
「カノン族だったはず。そろそろあちらも本腰入れてきたのかもな。それまでに、あの不良女を……」
「不良女?」
「女のクセして男用の学生服着るなんて不良だろ」
「クロのこと?」
「そう、そんな名前してたな」
「で、どう?ゼロから見て」
「顔は上の上だ。但し、制服が問題だ。あと、言葉遣いも」
「そうじゃない」
その言葉を聞いたゼロの顔は真剣になった。
「まだ、二年だろ。あと一年あれば成長するだろうな」
「じゃあ」
「ダメだ」
「なんでさ」
「あの制服と言葉遣いが気に入らん」
「そんなことか。問題ないよ」
「何か秘策でもあるのか?」
「とっておきのね」
そう言ったケーニッヒの顔はいたずらを考える子供のように笑っていた。
「お前がそういう顔するときってなんか相手が可哀想になるんだよな」
「そう?けっこう面白いけどな」
こちらは自分でも書いていて楽しくなるようなことを考えていて、これからは闘いから離れて、なるべく日常的なことを書いていこうと思います。
もう一つの物語が「現代」で「男の主人公」
こちらはというと「ファンタジー」で「女の主人公」
まったく逆のお話なので、同時更新中は書いているときに
混乱することもあります。
長い目で見てくれると幸いです。