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第六十三の魔法「ゼロ」

 「勝った」というには、あまりにも誤算の多い結果となった。全勝することがルーウェルにとっての勝利だったはずだ。しかし、結果は大将戦までもつれ込んでの勝利。それに、精鋭を集めたはずのメンバーはケーニッヒを除いて重傷。辛うじての勝利にルーウェルはあまり喜んで入られなかった。


「やはり中止しておくべきだったのかもな」


 その言葉はアスワドだった。確かに、とルーウェル自身もそう思っていた。まさか、ケーニッヒにこのような力があったとは。

 メギストンの心臓は半壊。観客席にも被害が及んでいる状況。幸い、傷を負った生徒や重傷者がいないだけ良かった。


「しかし、今回は本当に良い戦いでしたね」


「まぁ、生徒たちの伸びしろが見れただけでも良しとしますか」


 アスワド・ヴァローナが会話をしていると、一人の男が観客席から飛び降りて、此方に近づいてくる。


「君は……」


「久しぶりだな。ヴァローナ。それにオッサンも」


「お前、ゼロか!随分と久しぶりだな!どうしたんだよ急に」


「いや、ヴァローナに呼ばれちまって」


「どういうことですか?それに、この男は?」


 三人で和気藹々と話しているところをルーウェルが口を挟む。


「そうか、ルーウェルは知らなかったね」


 改めて、という様にゼロはルーウェルの方を向き、ヴァローナもまた、ゼロのほうを見る。


「彼は、ゼロ。5年前の卒業生で、この春から学科最高責任者の任を受けてもらうことにしていたんだ」


「なっ!」


「ここに着たということは……」


「もちろん、その任、快く受けるぜ」


「いいんですか理事長!」


「何がですか?」


「こんな若造に学科最高責任者など務まるとは思えませんが?」


「何も年を取っているから偉いとか強いとかそういう観念はいらないと思いましてね」


「しかし……」


「論より証拠です。試しに闘ってみてはいかがですか?」


「私が、ですか?」


「もちろん。私もアスワドもこの男の力は充分知っていますから」


「しかし……」


「恐いのか?おっさん」


 口を挟むゼロ。顔には余裕が見られた。


「なんだと」


「いくら、アンタが強くても俺には勝てないからな」


「口の減らないガキだな。いいだろう、闘ってやる」


「違う、違う」


「何?」


「俺が闘ってやるんだ。光栄に思え」


 その言葉に怒ったルーウェルは身構えてもいないゼロ目掛けて剣を振り下ろした。





 眼が覚めると夜になっていた。医務室の窓から月の光が差し込んでおり、目を覚ましたクロはベッドから降りて医務室を後にした。身体の感覚はいつものように戻っていた。何処も痛い箇所は無い。少しは自分の力について分かってきたみたいだな。

 廊下の先に一つの影が見えた。その影がこちらに近づくにつれ正体が分かる。ケーニッヒだった。


「もう、身体は大丈夫みたいだね」


 その言葉に違和感を覚えた。


「あまり、その力を使いすぎないようにね。あんな風に無茶な使い方をしていたら、身体がボロボロになっちゃうよ」


 やはり、おかしい。ケーニッヒは何かを知っているように見えた。


「アンタ、俺の何を知っているんだ?」


「全てだよ」


 その言葉で胸の鼓動が速くなる。


「え……」


「君の思っている疑問、それらに対して答えは出せると思うよ」


「教えてくれ!何でもいい!アンタの知っていること全てを!」


 ケーニッヒの肩を強く揺さぶる。動揺を隠し切れなかったのだ。


「分かったから、とりあえず落ち着いて」


 肩の手を振り解き、クロの眼を見つめる。クロは小さく二回頷いた後、二・三歩下がり距離を取る。


「何から話せばいいのかな」


 ケーニッヒは難しく考えていた。どう話せば、分かり易いか。


「まず、君はその、黒い力について何を知っている?」


「この力は……エテレインから聞いた話しだと、私の種族を滅ぼした魔物が……最後の力を振り絞って私に強引に与えた力だって……」


 エテレイン。その名を聞いたケーニッヒの顔にはいつもの笑顔は無かった。


「そうか、エテレインめ……」


「なに?」


「いや、なんでもない」


 再び、難しそうな顔をし口に手を当てて考え始めた。


「結論から言うと、それは嘘だ。エテレインは君に嘘の真実を話したんだ」


「どうして?」


「そのほうが、あっちにとって都合が良かったから。本当は……」


 その次の言葉を口にしようとしたとき、すぐ近くで扉の開く音が聞こえた。その扉からはレクスが出てきた。


「レクス」


「クロ。それに……」


 気まずい雰囲気が流れる。レクスがクロに対して持っている特別な感情。それを知っているケーニッヒとクロ。


「また、明日」


「あ、ケーニッヒ」


 沈黙に耐えられなかったのか、二人きりにしたかったのか、ケーニッヒはクロの手を拒み、夜の廊下に溶けていった。

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