第五十九の魔法「騎士学科二年最強の男」
騎士学科最後の生徒、ケーニッヒがメギストンの心臓に足を踏み入れる。
ただ、それだけのことで、観客席の騎士学科の生徒は歓声を上げた。絶対的な実力を兼ね備えた騎士学科二年最強の男。
「やっと、闘えるね。クロ」
クロは返事をしなかった。体中に走る激痛を堪えながら、必死で隠すように、息を整えていた。
剣を鞘から抜き、一振り。その一瞬の動作でケーニッヒの目つきは変わった。
「悪いけど、ケガしていても本気でいくよ」
最初から手加減してくれるとは思っていない。ただ、一瞬の隙さえあればと思っていた。
クロはもう一度、目を閉じて集中した。
「では、試合開始!」
その合図でクロは力強く目を開く。瞬間、黒い力が渦のようにクロを取り囲む。
「出た……ヨシッ!」
力強く前へ一歩踏み出す。爆発的な瞬発力を利用して一瞬でケーニッヒの眼前まで辿り着く。
突き出した拳は、剣によって阻まれる。ケーニッヒは剣にもう片方の手を添え、力を入れてクロを押し返す。
体を仰け反らせ、体勢を崩したクロを見逃さず、横一線に剣を振りぬく。
しかし、クロも体勢を崩しながら足に力を込め、大きく後退する。
「間近で見ると、本当に不思議だね」
その言葉とは裏腹に、ケーニッヒは果敢に攻撃を仕掛ける。クロも反撃に出るが、その最中、力に違和感を覚えた。
力が弱くなっている。
黒い力はクロ自身にとっても未知な部分が多い。連戦で使うのも初めてだから。
このとき、クロはある仮説を立てた。短い時間内に連続で使えば、力が弱くなると。
「覚えてる?約束のこと」
「当たり前だ!」
「なら、頑張らなきゃ。もっと、もっと」
ケーニッヒの剣が次第に強くなっていく。クロは反撃も出来ず、攻撃を避けるか、受け止めることしか出来なかった。
黒い力は防御にも使えるため。傷を負うことは無かった。
次第にケーニッヒの剣のスピードについていくことが出来なくなってきた。そして、腹部を切りつけられる。
「ぐっ!」
途端、激しい痛みがクロを襲う。耐え切れなくなり、クロはその場で膝をついた。
何かがおかしい。クロはそう思っていた。黒い力が半端に働いている。痛覚が何倍にも研ぎ澄まされているようだった。自分の意思とは無関係に力が勝手に働いている。
「どうしたの?まさか、もう終わり?」
「ふざけんな!」
クロは渾身の力を右手に振り絞り、勢いよく、前に突き出した。しかし、黒い力はその瞬間、完全に消え去ってしまった。
「え……」
「やっぱり、もう終わりだね」
隙を逃さなかったケーニッヒがクロの眼前に立ちはだかる。
天高く持ち上げた剣はクロの右肩から鋭く入り込み、振り下ろされた。
耐え難い激痛。背中から地面に倒れた頃には、クロに意識は無かった。勝者の名を叫ぶヴァローナの声も。
「勝者、ケーニッヒ!」