第五十八の魔法「黒い魔法の意味」
地面を蹴る間隔、強さが先程よりも数倍強くなっている。今度こそ、本気の速さだろう。そう思ったクロは、右手を天高く掲げる。
「アナタは、確かに速いわ。だけどね……」
クロの右手に宿った大きな黒い手は、形を変え、大きな球体へと変化した。そして、そのまま上空へゆっくりと上っていく。
レクスも、ケーニッヒも、観客席も、その球体を見入っている。ただ一人、ゼロだけはクロの姿をじっと見据えている。
「さぁ、何をしてくれる?お前はどうやって、その力を使ってくれる?」
球体は、上にも存在する光の壁まで近づくと、自動的に破裂した。そして、黒い粒となり、上空を黒く染めた。
「さぁ、現れよ。『黒く凍てついた嵐』よ」
その粒が剣へ姿を変え、一斉に降り注ぐ。それは、バシリスが使った魔法「フレッド・テンポラーレ」に良く似ていた。
黒い剣が、嵐のように、メギストンの心臓に降り注いだ。
全ての剣が上から落ち、メギストンの心臓は黒く染まっていた。そこにはただ一人、クロだけが立っていた。
体が痛い。やはり、あの姿に変身するのは、相当の負担が掛かっている。おまけに、傷も癒えていない。最悪の形でケーニッヒと闘うのか……。時間にして四十五秒。それが、今の限界。恐らくもう、変身することは出来ないはずだ。だけど、絶対に負けたくない。
負けたら……。
次の闘い。魔法学科の副将と騎士学科の大将との闘いの準備をしている最中。観客席はどよめきで埋め尽くされていた。
ただ一人。ゼロはクロだけを見つめていた。
「人の魔法を、自分の魔法に変える……か。やはり、本物のようだ」
ゼロは、満足そうな表情で、クロを見つめた後、視線を少しずらす。
目に映っているのは、一人の男子生徒。今年の新入生の一人。この男子生徒だけは、他の生徒とどこか違っていた。皆が、黒い球体を見入っていた時でもゼロと同じようにクロだけを見ていた。
それを、ゼロは見逃さなかった。少なくとも、何かを知っているような、そんな気がしたからだ。